車いすの母とダウン症の弟、認知症の祖母――。そんな家族との日々をつづった自伝的エッセイが多くの人の心を掴んでいる作家の岸田奈美さん。昨年、岸田家をモデルにしたドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」がNHKBSプレミアムなどで放送されて話題を呼び、今年7月からは地上波で放送されています。「どんな道を選んでも、うちの家族は最高」という岸田さんに、母・ひろ実さんに「死にたければ死んでもいいよ」と言ったあの日のこと、そして今は別々に暮らす家族との大切な時間について聞きました。※前編〈岸田奈美が語る「絶対に否定しない」母の子育て 「私にもダウン症の弟にも『あんたが一番大事やで』の 二枚舌外交」〉、中編〈作家・岸田奈美が語る、母の一番好きなところ 「ようそんなに喜べるなぁ…と感心するくらい本気で感動する」〉から続く

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家族を愛することは、「いい距離」を探すこと

――今、岸田家のみなさんは、別々に暮らしているそうですね。

 3年ほど前に母が入院したのをきっかけに、私も東京から神戸の実家に帰ってきて、家族が近い距離で一緒にいたんですけど、その期間は家が荒れて、ケンカばっかりだったんですよ。おばあちゃんは認知症になるし、みんなイライラして余裕がなくて。

 そういうこともあって、母が回復してある程度落ち着いたタイミングで、家族のあり方について考え直しました。

「家族で寄り添って支え合う」というと聞こえがいいけど、お互いにもたれかかって破滅したのでは意味がない。家族のために誰かが犠牲になって削れるというのもダメ。「家族みんなが幸せでいること」が一番なんですよ。

 だから「今後、岸田家においては、家族を愛するためにそれぞれが自立を目指して、外に味方を作っていこう」と、私が提唱しました。

 自立とは、頼れる先を増やすこと。

 家族を愛するというのは、家族を愛するいい距離を探すことだと思うんです。家族を愛することによって自分にも自信が持てる、自分も幸せになれる、自分も愛せるという距離感。

 家族って、一番近い存在だからこそ、一番めんどくさい存在になるんですよね。

 他人なら気遣えることが、「なんでそんなことわからんの? 言わんでもわかってよ」と甘えてしまう。「家族なのに」とイライラしてしまう。そうならずに、お互いに優しくできる距離を探そうということですね。

 そのための「戦略的一家離散」です。

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大道絵里子
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