中学受験をする子どもの「睡眠不足」が気になる……という親御さんは多いのではないでしょうか。塾から帰ってきて、家で勉強をして寝るのが12時になってしまう、というケースもあります。こうした塾通いの小学生の睡眠不足に警鐘を鳴らしているのが、熊本大学名誉教授の三池輝久先生です。30年にわたり子どもの睡眠障害の研究を続ける三池先生は「小学生のうちから夜遅くまで勉強して、睡眠不足が蓄積されると、中学生や高校生になってから、不登校になる可能性があります」と指摘します。小山美香さんの著書『中学受験をして本当によかったのか?~10年後に後悔しない親の心得』(実務教育出版)からお届けします。

MENU 睡眠不足が「不登校」の引き金になる理由 睡眠不足の蓄積で、脳の働きと知能が低下する 睡眠障害につながりやすい7つのきっかけ

睡眠不足が「不登校」の引き金になる理由

――中学受験と不登校、関係があるのでしょうか?

 小5や小6の子どもには8時間半から9時間の睡眠が必要です。しかし、中学受験の勉強をしている子どもは夜遅くまで起きていますから、睡眠時間が明らかに足りていない状態です。さらに中学進学後も、中学生は7〜8時間の睡眠が必要ですが、勉強や部活に忙しく、さらにスマホやゲームも加わって、ますます睡眠不足は蓄積されます。中高生の7割近くは睡眠時間が6時間以下という調査結果もあり、明らかに睡眠不足です。睡眠不足が蓄積して、限界を超えると、今度は急に10時間以上眠って起きられなくなってしまう「睡眠・覚醒相後退障害(Delayed Sleep-Wake Phase Disorder)」といわれる睡眠障害になってしまいます。これが不登校を引き起こす原因の一つです。中学受験をする子ども全員がそうなるわけではありませんが、不登校の引き金の一つになりうるのです。

――不登校は、子どもが学校に行きたくないという心の問題ではないのですね?

 不登校の児童・生徒の多くが、元気だけど学校に行かない選択をしたのではなく、昼夜逆転して朝起きられないという体の異常が起こり、学校に行きたくても行けない状態です。不登校の生徒の体を検査すると、発汗反応や眼底検査で異常がみられ、糖代謝が低下し、ホルモン分泌や深部体温のリズムも異常をきたしています。通常は夜中の1時から3時に深部体温が低くなることでぐっすり眠れるのですが、それが朝5時から6時くらいにずれているのです。

 人間の全身37兆個の細胞には、概日(がいじつ)リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれる体内時計があり、朝になったら活発に動き、夜になったら休息して翌日に備える、というリズムで動いています。ホルモンの分泌や体温の変化だけでなく、脳や臓器の一つ一つが時計を持っていて、それぞれが連携して一つの時間に合わせています。それが、睡眠・覚醒相後退障害になると、なかなか寝つけないのに、いったん眠ると10時間目が覚めません。しかも、極めて質の悪い睡眠で、起きた直後からだるく、体が動かず、意欲もわかず、疲労がまったく回復されません。睡眠リズムや自律神経に問題が起こり、夜間に起こるはずのメラトニン(眠気を起こして、体温を低下させるホルモン)の分泌が朝方にずれ込み、早朝に見られるはずのコルチゾール(血糖値を上げて、活動できる状態にするホルモン)やβ‐エンドルフィン(快をもたらす脳内神経物質)の分泌が午後にずれています。これが不登校の子どもたちの体に起こっている状態です。

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小山美香
小山美香

大学時代よりフリーライターとして活動を始める。大学卒業後は「サンデー毎日」(毎日新聞社=現・毎日新聞出版)の編集記者として、多岐にわたって取材・執筆。その後フリーランスに転身。「本と出会う」(BS-i=現・BS-TBS)のキャスター、タウン誌記者などを経て、読売新聞オンラインの「中学受験サポート」で、のべ160校以上の私立中学校高等学校を取材している。また、中学受験だけでなく、通信制高校や子ども食堂など、子どもをめぐるさまざまな事象についても、週刊誌やニュースサイトに寄稿している。プライベートでは3児の母として3度の中学受験を経験。趣味はガーデニング。

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