■字を書くことは心のトレーニング
君は「写経」って知っているかな? 仏教の経典(仏さまの教えが書かれた書物で、お葬式のときに読まれるお経とかもこれに当てはまるよ!)を、書き写すことなんだ。仏教の教えを伝え広めるために始まったんだけど、修行の一環としても使われているんだ。
よしおは大学受験のとき、とにかくたくさん書いて覚える、という方法で勉強をしていたんだけど、たくさん字を書くと気持ちが落ち着くのを感じていた。きっと、写経にもその効果があるのかなあ、って思ったよ。精神が整うというか。ペンで書く「美文字」のレッスンなんかもよく見かけるけど、丁寧に字を書くことって、きっと心のトレーニングになるんじゃないかな。
「何文字かは丁寧に書こうとしている」って言っているから、それをどんどん伸ばせるように続けることだ大事だと思うんだ。マラソンと同じで、最初から長い距離を走り切れる人なんていないからね。そしてマラソンも、疲れてくるとフォームが崩れてしまう。フォームを意識しながら、つまり字を丁寧に書くことを意識しながら、距離を伸ばしていけるといいね。
字って、自分が思っている以上にその人の思いが伝わるもの。大人になってからも字を書く機会はある、って話をしたけど、とくに印象的だと思うのは、結婚するときに役所に届け出をするために書く婚姻届。婚姻届には「証人」っていう欄があるんだけど、よしおは何人かの後輩の婚姻届に証人として名前を書いたことがあるんだ。
そのとき、先に書いてある後輩の字を見ていつも驚くんだ。「こんなに丁寧な字は初めて見たぞ!」ってね(笑)。やっぱり人生の一大イベントだから、丁寧に思いを込めて書いたんだな、って思うんだけど、それくらい、字は見た人に気持ちが伝わるんだ。連絡帳も、宿題も、自分のための課題だけど、字を丁寧に書けるようになれば、人からの印象もいいものに変わることがあるんじゃないかな。
君のお母さんも先生も、「丁寧に書きなさい」って言ってくれているよね。お母さんや先生が言っている「丁寧」っていうのは「きれいに」とか「上手に」っていう意味じゃなくて、「心を込めて」っていう意味だと思うんだ。字っていうのは自分の“じ”で、字を大切にすることは自分を大切にすることなのかもしれないね。
……って、僕は思うんだけど、君はどう思うかな?
(構成/濱田ももこ)
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