■建屋への汚染水の流入を止められない
燃料デブリの取り出しを始めるのに不可欠なのが、建屋への地下水の流入を止めることだ。そのため、1~4号機の建屋を取り囲む地中に全長約1500メートル、深さ約30メートルにわたる「氷の壁」(凍土壁)が建設された。
建屋の周囲の井戸から地下水をくみあげる「サブドレン」も続けられている。それでも、雨が少ない日でさえ、1日100トンほどの地下水が建屋に流入し、放射性物質に汚染された水が増え続けている。
東京電力は放射性物質の大半を取り除いた水を敷地内のタンクにため続けているが、今の技術では、放射性トリチウム(三重水素)は取り除けない。
敷地内に林立する汚染水の貯蔵タンクは現在、約850基。110万トン分の容量があるが、すでに約104万トンが埋まっている。このうち約85万トンは放射性トリチウムを含む水で、残りは多種の放射性物質をまだ含む、汚染がより深刻な水だ。
東京電力は2020年のうちに地下水の流入を止め、建屋内の汚染水をほぼゼロにする計画だが、流入を止められるかどうかは、わからない。
燃料デブリの取り出しにたどり着けても、難題が待っている。
燃料デブリは放射能がきわめて強く、人は近づけない。放射能が弱まるまで10万年程度は人間社会から遠ざけておく必要があるが、保管場所や処分方法は決まっていない。
その後の原子炉や建屋などの解体については、今の国と東京電力の廃炉の計画には、項目さえない。
原子力規制委員会の更田豊志委員長は3月7日の記者会見で、廃炉計画の現状を登山にたとえて、こう話した。
「山頂が見える状況ではない。しかも、(これから)どのぐらいの勾配(斜面)が待ち受けているのかもわかっていない」
(解説/朝日新聞編集委員・上田俊英)
【キーワード:東京電力福島第一原子力発電所の事故】
2011年3月11日、東日本大震災に伴う巨大津波に襲われた福島第一原発(6基)のうち、運転中の1~3号機は電気の供給が途絶えて燃料を冷やせなくなり、相次いで炉心溶融(メルトダウン)を起こした。さらに炉心溶融で発生した水素が爆発して1、3、4号機の建屋が吹き飛び、大量の放射性物質が放出された。
【キーワード:使用済み核燃料】
原発で燃やし終えた核燃料。燃料の原料であるウランや、ウランの核分裂に伴ってできたプルトニウムなどの放射性物質が含まれる。高い熱や、人が近づけば死んでしまうほどの放射線を出しているため、原子炉から出した後は、原発内にあるプールにためた水の中で保管している。
※月刊ジュニアエラ 2018年5月号より