大統領の元専属料理人が「売り上げ」で母国に学校建設…キッチンカーに詰まった人間ドラマ
遠くて近い「絶品」を旅して
石田かおるAERA

FOFO(フォフォ)/エミール・イルブードさん(61)/店名のFOFOは西アフリカの言葉で「歓迎」の意味。内陸国・ブルキナファソ出身(撮影/写真部・張溢文)
【西アフリカ、エルサレム、ハイチ…いますぐ食べたいキッチンカー料理はこちら(計11枚)】
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タンタンターン──。
中華包丁で鶏肉を小気味よく切る音が聞こえてくる。お弁当を開けると、パクチーとチキンライスの香りがたちのぼり、いっきにアジアご飯の世界にタイムトリップした。屋台街の喧噪や匂い。東京・半蔵門のビル街の一角で、旅の記憶が蘇る。

海南鶏飯 BALESTIER(バレスティア)/ジョーイ・ホー・ニヘイさん(27)/一つ星レストランや香港のシャングリラホテルなどで修業。シンガポール国立大卒。母は日本人で、日本語も自在に話す(撮影/写真部・張溢文)
「砂肝やレバーは、シンガポールでは茹でるので硬いのですが、僕は部位ごとに低温調理して、それぞれの食感に仕上げています」
おいしさの秘訣をそう語るジョーイさん。高校生のとき、後にミシュランの一つ星となる郷土料理店で修業。シンガポール国立大学進学後は、香港の名門シャングリラホテルの飲食部門でインターンを経験。中国・上海の復旦大学や韓国のソウル大学に留学中も食の現場を精力的に歩いた。

チキンライスに、鶏肉の好きな部位をのせる。もも780円、胸680円(撮影/写真部・張溢文)

もも、胸、砂肝、レバーの4種がのった「BALESTIERセット」1000円(撮影/写真部・張溢文)
ジョーイさんは、日本人の母を持ち、英語、中国語、日本語の3カ国語を自在に話す。子どものころから料理が好きだったが、強く意識するようになったのは大好きだった祖父を亡くしたのがきっかけだ。
「人はいつか亡くなるけれど、食の記憶は残る。料理を作り続ければ、母や家族をずっと身近に感じられると思いました」
来日したのは2019年1月。ITのスタートアップの誘いを受けてだが、母の祖国で一度暮らしてみたい思いもあった。暮らしてみて知ったのは、日本社会の「外国人に対する壁」。キッチンカーで現状を変えられないかと考えた。
「その国の料理を好きになれば、人にも興味が湧くのではないかと考えました。おいしい料理は人の心を開かせます」
ゆくゆくは世界各地の郷土料理のキッチンカーを共通ブランドで展開したい、とジョーイさんは語る。

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