名店「すみれ」を1カ月半で“逃亡” それでも味噌にこだわったラーメン店主の決意と覚悟
連載「ラーメン名店クロニクル」

「三ん寅」の味噌ラーメンは、都心で食べられる本格的な一杯だ。850円(筆者撮影)
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■ミスを連発し、厳しい修行を1カ月半で“逃亡”
札幌味噌ラーメンブームの火付け役といえば、1989年に札幌で生まれた「すみれ」だろう。店主の村中伸宜さん(62)が母・明子さんが64年に始めた「純連(すみれ)」での修行を経て独立。94年の新横浜ラーメン博物館(ラー博)への出店をきっかけに人気は全国区に。今やカップ麺やコンビニエンスストアのチルド麺などでもおなじみになった。
その「すみれ」の弟子が2019年、東京メトロ有楽町線の江戸川橋駅近くにオープンした店がある。札幌味噌ラーメン「三ん寅(さんとら)」。卓越した技術で香ばしく焼かれた味噌の濃厚なスープが特徴だ。

三ん寅/東京都新宿区山吹町362 プレステージ362 1F 102号/11:00~15:00、17:30~20:30※材料売り切れ次第終了あり、不定休/筆者撮影
店主の菅原章之さん(46)はラーメンの食べ歩きをする中で「すみれ」の味に惚れ込み、27歳で見習いとして業界に飛び込んだ。その後、「すみれ」を18年も支え、本店の店長を始め、各地の店舗展開にも携わってきた。
だが、18年の修業でラーメンの作り方を教えてもらったことはなかった。「ラーメン作りは見て覚えろ」というのが「すみれ」イズム。かつて寿司屋で修行していた社長の伸宜さんが、寿司の握り方を目で見て覚えてきたことも影響しているという。
「毎日出勤時間より2時間以上早く来て、仕込みを終わらせてから厨房でラーメン作りの練習をしていました。やらないとどんどん置いていかれてしまうんです。続かなくて辞めていく人もたくさんいましたね」(菅原さん)

「三ん寅」店主の店主の菅原章之さん。「すみれ」イズムを受け継いでいる(筆者撮影)
従業員たちは皆「すみれ」の味に惚れて入ってきたファンの集団だった。仕事に対する熱量がとにかく大きく、皆必死で食らいついていた。やれと言われているわけではないがやるしかない。やる気は態度で見せるしかない。そんな状態だったという。
菅原さんは入社してラー博店に配属。仕込みを一人でこなし、毎日朝から閉店まで行列が絶えなかった。ベテランの先輩たちの足を引っ張らないように頑張ったが、全くついていけずミスを連発。自信を無くしていた。そして、1カ月半が経ったある日、黙って店を逃げ出した。数日後頭を丸めて謝りに行くと、伸宜さんが出てきてこう言った。

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