名古屋入管で収容中に亡くなったウィシュマ・サンダマリさん。夢を持って来日し、最後は国の施設で亡くなった。まだ33歳だった。ウィシュマさんが亡くなった後も、自殺未遂者が出ているという入管の現状とは。AERA 2023年7月10日号の記事を紹介する。
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目を覆いたくなる悲しい映像が、法廷に流れた。
6月21日、名古屋地裁。
大型モニターには、2021年3月6日に名古屋入管で収容中に死亡したスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)の、衰弱しきった姿が映っていた。
「死ぬ」
「病院持って行って、お願い」
ウィシュマさんが看守らに病院に連れて行くよう弱々しい声で訴えるのに対し、「大丈夫、死なないよ」などと応じる様子などが記録されていた。
映像は、ウィシュマさんの遺族が起こした国家賠償請求訴訟で、国側が証拠として提出していたもの。ウィシュマさんが亡くなるまでの13日間が記録され、遺族側は死亡した経緯を広く知ってもらいたいと法廷での上映を求めていた。約5時間分あり、この日は約3時間分が流された。残りは、7月12日の次回裁判で上映される予定だ。
■3人が自殺未遂
ウィシュマさんは17年、母国で語学学校を開くという夢を持ち日本に留学した。しかし、学費が払えなくなり在留資格を失い、不法残留に。20年8月に名古屋入管に収容され、最後は、命を奪われた。
ウィシュマさんの死を受け、入管庁は昨年2月、医療体制が不十分だったとし、全国の収容施設で常勤医師の確保など再発防止のための「医療体制の強化」を打ち出した。名古屋入管では、医師はそれまでの非常勤4人から常勤が1人増えた。
だが、名古屋入管でウィシュマさんへの面会を続けていた支援団体「START(外国人労働者・難民と共に歩む会)」顧問の松井保憲さん(69)は、「入管は何も変わっていない」と厳しく批判する。
「例えば、収容者が『具合が悪い』といって医師に診てもらっても、医師はまともな問診も触診もしません。薬を出すだけです。その結果、薬漬けのようになり、体そのものを壊すだけでなく、精神的にも異常をきたしています。これは、ウィシュマさんが亡くなる前と全然変わっていません」
松井さんによれば、名古屋入管ではウィシュマさんが亡くなって以降も、把握しているだけで3人の自殺未遂があったという。
「入管がいう『改革』とはその場しのぎです。行っている医療は病気を治すための医療ではなく、収容を維持し、続けるための医療。ウィシュマさんの死は、全く教訓化されていません」
それを象徴するような問題が発覚した。