厚生労働省への生活保護の運用見直しを求めるオンライン署名にあわせて描いた儚さんのイラスト(illustration 儚さん提供)
厚生労働省への生活保護の運用見直しを求めるオンライン署名にあわせて描いた儚さんのイラスト(illustration 儚さん提供)

 大学生は原則、生活保護を認められない。大学・短大の進学率が8割に達した今も60年前のルールが適用されている。若者たちは「大学は贅沢ですか」と声を上げる。AERA 2023年4月17日号の記事を紹介する。

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<大学は贅沢(ぜいたく) なんですか?>

 地方の国立大学に通う「儚(はかない)」さん(21)は昨年9月、少女がこうつぶやくイラストをツイッターに投稿した。

「ずっと、大学は贅沢だという問題に向き合わされてきました」

 3歳の時に両親が離婚。母親(53)と一緒に暮らし始めたが、母親は心的外傷後ストレス障害(PTSD)などを発症し、働けなくなり生活保護を受けるようになった。電気などライフラインが止まることもよくあった。

 貧困から抜け出すには学歴が必要と考え、勉強して国立大学に進もうと決めた。

■待ち受けた過酷な現実

 しかし、高校1年の時、生活保護世帯の子どもは原則として大学進学が認められず、進学するには「世帯分離」しなければいけないと知った。世帯分離とは、住民票に登録されている一つの世帯を二つ以上に分け、保護から外れることだ。

「こんなに頑張っているのに、生まれてきた環境だけで選択肢を狭められるんや──」

 ショックだったが、現実を受け止めて猛勉強した。2020年春、第1志望の大学に合格。返済不要の給付型奨学金や授業料の減免措置を受けることができ、世帯分離の手続きもした。ようやく手にした未来への切符だった。

 だが、待ち受けていたのは過酷な現実だった。

 母親からの仕送りは望めないので、生活費も教材費も国民健康保険料までも自分で支払わなければいけない。世帯分離したことで、家族に支給される保護費の減額分(約4万円)を母親から求められた。塾の講師やキャバクラなどバイトに追われ、睡眠は1日4、5時間。食費を切り詰め、体重は36キロまで落ちた。心と体が悲鳴を上げ、摂食障害とうつを発症し、1年で休学を余儀なくされた。

「儚」のハンドルネームで、ツイッターに投稿を始めたのはこのころから。自分の感情を見つめ直すため幼い時から大好きだった絵を描いて投稿し、思いも発信するようになった。

「生活保護世帯の子どもが原則大学進学できない仕組みになっているのは、今の時代にそぐわないと思います」(儚さん)

 一方、厚生労働省は昨年12月、5年に1度の生活保護の見直しについて中間報告を取りまとめ、生活保護を受けながら大学に進学することを認めないルールは現状のままとする方向性を示した。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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