■指導員の不足も深刻

 もう一つ、供給が追いつかない理由が子どもたちを支援する指導員の不足だ。民間団体「全国学童保育連絡協議会」の調べでは、勤続年数が3年未満の指導員は約3割を占める(18年)。背景には指導員の処遇がある。同協議会の調べでは、年収150万円未満は約48%だ。都内の学童で働く指導員の女性(40代)は、若い指導員が2、3年で辞めていくと嘆く。

「若い人が安心して長く勤められる環境になっていません」

 学童の待機児童問題は、さまざまな弊害をもたらす。山口教授は、次のような懸念を示す。

「子どもが学童に入れなくなると、母親が仕事を犠牲にすることが多くなります。日本の企業はフルタイムで働かなければ昇進できないケースが多く、時短勤務で働くようになったりすると、女性の管理職がますます増えにくくなります」

 キャパシティーが足りなくても、働く親たちのために子どもを受け入れる学童も少なくない。狭い教室に何十人も子どもがいる状況は子どもが発達する上で決してよい環境ではないと話す。

「まず、『縦割り行政』を解消し、厚労省と文科省は連携して学童の設置に取り組むことが大事。同時に、国は十分な予算をつけ、指導員の待遇をよくすることも重要です」(山口教授)

 学童は、親が日中家にいない小学生にとって大事な「居場所」だ。その環境を整えることは緊急の課題で、岸田政権が打ち出す「異次元の少子化対策」も、学童を含めた保育サービスの拡充を挙げる。

 冒頭の女性の息子は2次選考後、学童の利用許可通知が届いた。女性は今、こう訴える。

「安心して仕事ができるよう、希望する人みんなが入れるようにしていただきたいです」

(編集部・野村昌二)

AERA 2023年4月10日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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