AERA 2023年4月3日号より
AERA 2023年4月3日号より

■保守派を蚊帳の外に

 韓国との関係改善も動き出した。安倍政権下では、元徴用工への賠償を認めた韓国大法院の判決をきっかけに日韓関係は「過去最悪」の状態に陥っていた。日本は半導体材料の対韓輸出規制を決め、韓国はWTO(世界貿易機関)に提訴。安倍氏を支持する保守系雑誌は韓国たたきを強めた。それが一転。韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の決断で財団をつくって賠償を肩代わりすることになった。岸田首相も評価して決着の方向に進んだ。3月16日には尹大統領が訪日して岸田首相と首脳会談。「未来志向の日韓関係」をアピールした。東京・銀座の飲食店で開かれた夕食会で和やかに酒を酌み交わすなど、首脳同士の交流を深めた。韓国バッシングを続けてきた保守派は蚊帳の外に置かれた。

 安倍政権当時に首相官邸側から放送法の解釈変更を求める動きがあったという総務省の行政文書が暴露されたのも、安倍氏に連なる保守派には打撃だ。文書によると、安倍派の参院議員だった礒崎陽輔・首相補佐官(当時)が放送法の政治的公平性をめぐって、放送局の番組全体で判断するとされていた従来の解釈を、一つの番組でも偏っている場合は公平性を欠くと判断できると変更すべきだと主張。総務省の官僚に解釈変更を強要する安倍政権の強引な体質を印象付ける文書である。文書については、当時総務相だった高市早苗氏が自身の発言などは「捏造(ねつぞう)だ」と反論。野党側は追及を強め、自民党内でも高市氏の対応に批判が出ている。

 自民党内に波紋を広げたのが安倍氏の地元である山口県下関市の市議選の結果だ。2月5日に投開票され、定数34のうち、安倍氏を支持してきた勢力は9人から7人に減少。これに対して安倍氏のライバルとして争ってきた林芳正外相(自民党宏池会座長)を支持するグループは11人から12人に増えた。

 林氏はもともと下関市出身だが、参院から衆院に鞍替(くらが)えした現在の選挙区は下関市ではなく、隣の宇部市や萩市など。それでも、林氏の勢いが強まっていることに、自民党内からは「安倍時代の終わりを実感した」(閣僚経験者)という声が聞かれた。

 安倍氏が率いてきた保守派が沈む中でも岸田首相が浮上していないことは、世論調査にも表れている。朝日新聞が3月中旬に実施した世論調査によると、岸田内閣の支持率は40%で前月比5ポイント上昇したものの、不支持率は50%(前月は53%)で、支持率を上回っている。同時期の読売新聞の調査でも支持率は前月(41%)から横ばいの42%、不支持率は43%(前月は47%)だった。岸田政権の「低位安定」は変わっていない。

 多くの調査では、岸田政権を支持する理由について「ほかの政権より良さそうだから」という回答が多い。岸田首相を積極的に応援するというより、消去法で支持している人が多いのだ。自民党の選挙対策担当者は、「内閣支持者も自民党支持者も、安倍政権に比べると熱量不足だ」と指摘する。(政治ジャーナリスト・星浩)

AERA 2023年4月3日号より抜粋