週末もヒーヒーままならない働き方改革(イラスト:サヲリブラウン)
週末もヒーヒーままならない働き方改革(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 2023年の目標は「仕事量を減らし、質を上げる」です。なのに、なぜか私は週末もヒーヒー言いながら働いています。どうしてこうなった。

 答えは簡単。未経験の新規案件を引き受けたからです。「量を減らし、質を上げる」のどちらにも反するんですから、私の反逆精神もたいしたもの。いや、冗談を言っている暇はない。経験も知識もない上に、時間もないなんて!最大の敵は好奇心です。敵であり味方でもあるのが難儀。

 仕事量を減らそうと思ったのは、体力がもたなくなってきたから。加えて、今年は50歳になる年。仕事以外に時間も心も使う時期と悟りました。

 にもかかわらず、アミノ酸サプリ摂取で取り戻した元気を、好奇心に任せて受けた新たな仕事に使うだなんて。私は本当に学習能力がない。いくつになっても好奇心を失わないことが大切だと聞いたことがありますが、何事も程度問題でしょう。

 私は会社員時代から、興味本位で仕事を変えてきました。そのたび、好奇心と成果の帳尻を合わせるため、多少の無理を自分に強いてきました。そうやって、できることを増やしてきたのは間違いない。

 50歳からは腰を落ちつけて、体得したことを生かし、質を高める働き方をしたい。心からそう願っていたのに、3月にしてこのありさまです。さあ、どうしよう。下手すると、次の10年もバタバタだ。

 40歳になったとき、イメージしていた40歳と自分は大きくかけ離れていました。アレをまたやるの? 友人たちは、昇進したり、子育てがひと段落したりと、落ち着きモード。どうして私はいつも、みんなと同じ列車に乗れないのだ。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 いい加減自分の性質を受容しろとも思いますが、私はいくつになっても人は変われるという言説を信じたいのです。誰にだって、また同じことをしている!と自分に憤り、変わりたいと願うことがひとつやふたつはあるはずだもの。

 私とは逆に、新しいことを始めるのが苦手な人。意見が言えない人。言いすぎてしまう人。その性質のおかげでいいこともたくさんあったはずなのに変わりたいと思うのは、導き出される結果に変化がなく飽きているからかも。少なくとも私はそうです。

 自分の働き方改革がままならない中年、私以外にもいるといいな。集まって会議でもしたいところですが、また仕事を増やすことになるので自粛します。

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2023年3月27日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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