ロシア軍がウクライナに侵攻してから1年、戦争によって自然環境の破壊が進んでいる。旧満州からの引き揚げ経験者で、歌手の加藤登紀子さんと作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんが意見を交わした。AERA 2023年3月6日号の記事を紹介する。

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加藤:ロシアのウクライナ侵攻前のことですが、世界の土の分布を表した世界地図を見せていただいたことがあります。地球上で一番いい土を持っている国はウクライナなんです。

佐藤:小麦の栽培地として有名な黒土地帯です。

加藤:アフガニスタンなどもそうですが、砂漠化してしまった土地が増えている中で、ウクライナは地球上で最も豊かな土を持つ国です。世界中が気候変動問題でおかしなことになっていますから、そういう視点でもウクライナの農業を世界中の人が守らなければいけないわけです。そこをミサイル、ましてや核兵器で汚染したら、地球の未来はどうなってしまうのか。また、ロシアは天然ガスを掘ることで温暖化ガスがどんどん噴出して、凍土が沼地化しています。あの辺りはすでに相当環境異変が進んでしまっています。

佐藤:戦争によってCO2(二酸化炭素)の排出が飛躍的に増えています。ヨーロッパの緑の党は、環境っていうことをあれだけ言っているのに戦争を止める気配がありません。また、永久凍土が溶けることによって北極海が通年航行可能になることで経済開発が進むという側面がありますから、地球温暖化をロシアは歓迎している部分もあるのです。そういう意味でロシアが一番遅れているのは環境意識なのです。

加藤:この時代、一般の市民のほうが真っ当な意見を持っているのに、国を動かす人がそのように動けない。戦前と同じです。そもそも国というものがもうダメですよね。民と民の力で世界を結んでいきたい! そこにきっと歌の可能性もあると思うんです。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2023年3月6日号より抜粋