
ロシア軍によるウクライナ侵攻が長期化するなか、殺傷能力のある兵器が送れない日本だからこそできることは何か。旧満州からの引き揚げ経験者で、歌手の加藤登紀子さんと作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんが意見を交わした。AERA 2023年3月6日号の記事を紹介する。
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佐藤:加藤さんが68年にソ連7都市演奏旅行から戻ってきたときはたくさんの取材を受けたんですよね。
加藤:横浜の港に戻ってきたら、すごい数の記者がいたんです。それはソ連のチェコ侵攻(チェコ事件)の後だったから。当時、プラハにソ連の戦車が入ったというだけで、全世界が沸騰したわけです。
佐藤:ウクライナ戦争とチェコ事件の根本的な違いは、チェコが非暴力抵抗路線をとったにもかかわらず、ソ連軍が入ってきて住民を殺害したことでしょう。国際社会がわき立ったのは、チェコが非暴力をとったからです。今のウクライナ戦争と違うんです。
加藤:なるほど。
佐藤:だから(当時のチェコスロバキアの政治家)アレクサンデル・ドゥプチェクとかも抗議するんだけど、非暴力と力では力に押し切られます。しかし、その場においては無力のように見えても、道義的には歴史の中において非暴力抵抗のほうが勝つんです。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、すぐに銃を国民みんなに配って火炎瓶の作り方を教えました。全員で武装抵抗しろと。あれを世界中はほめたたえていますが、後に歴史においてどう検証されるのか。やはり私は非暴力抵抗のほうが強いと思うんです。
加藤:私も絶対そう思います。
佐藤:非暴力抵抗だったら、ロシアの中からももっと強い形で抵抗運動が出てきたでしょう。ロシアから出国した人は200万人ぐらいと言われていますが、ほとんどが戻ってきています。その人たちが、戦争はやむを得ないという感じになっているというのです。ヨーロッパの中で反ロシア感情を見てきていますから、もしウクライナが勝つとひどい目に遭わされると。それらの人々は、プーチン大統領の政策を支持していないにもかかわらずです。