セイコータイムラボ グランドセイコーサービス スタジオ・クレドール サービススタジオ所長代理 笹川修(ささがわ・おさむ)/1968年生まれ、東京都出身。87年入社、96年に時計修理技能士1級の資格を取得。2001年に時計技能競技全国大会で第1位。13年に卓越した技能者(現代の名工)表彰、22年に黄綬褒章を受章(撮影/伊ケ崎忍)
セイコータイムラボ グランドセイコーサービス スタジオ・クレドール サービススタジオ所長代理 笹川修(ささがわ・おさむ)/1968年生まれ、東京都出身。87年入社、96年に時計修理技能士1級の資格を取得。2001年に時計技能競技全国大会で第1位。13年に卓越した技能者(現代の名工)表彰、22年に黄綬褒章を受章(撮影/伊ケ崎忍)

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年2月13日号にはセイコータイムラボ グランドセイコーサービス スタジオ・クレドール サービススタジオ所長代理の笹川修さんが登場した。

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 末永く正確に時を刻み続けてほしい──。そんな思いを抱きながら一つ一つの腕時計を丁寧に修理してきた。積み重ねた技能、実績が評価され、昨秋、長年一つの仕事で技術を磨いてきた人におくられる黄綬褒章を受章した。

「時間がずれる」「針が止まる」。ユーザーから寄せられるさまざまな相談に対し、原因を予測しながら時計を分解し、診断する。極めて小さく繊細な部品を工具で傷つけることがないよう、慎重な作業が求められる。「いわば時計のお医者さんです」

 主に取り扱うのは、高級ブランド「グランドセイコー」の腕時計だ。ぜんまいで動く機械式モデルは、何百もの部品で構成される。なかでも心臓部にあたり、精度をつかさどる部品「ひげぜんまい」の調整には、熟練の技が求められる。同心円状のひげぜんまいが伸縮を繰り返すことで、時計は正確な時を刻む。だが、落下による衝撃などでゆがみや曲がりが生じることがある。そのゆがみや曲がりを顕微鏡で探しながら、ピンセットを使って100分の1ミリ単位で調整する。

「ピンセットは市販の物ですが、そのままでは到底修理はできないので、自分でカスタマイズしています」

 丁寧に作業を進めても、一度で精度が出ないことがある。経験と知識に加え、ユーザーの使用状況など、修理に必要なすべてを結集しても、精度にずれが生じうるのだ。「部品の状態は時計によってそれぞれ。理屈通りにはいかないものです」。だが、悩みながら原因を突き止める時間も大切にしている。

「新たな原因が分かると、また一つ成長できたなと感じます。やっぱり時計修理が好きなんですね」

 ユーザーと面と向かって接することはないが、お礼のメールや手紙を読むことが何よりの喜びだ。以前、「修理してもらった時計を子どもに渡す日が楽しみです」と書かれた手紙をもらった時は、身の引き締まる思いでいっぱいになった。

 入社以来、修理一筋に30年以上。職場のトップとして後輩に伝えているのは、いつも品質を第一に考えることだ。

「生産性は年月とともに上がるが、品質は意識しないとよくならない。ユーザーのために、縁の下の力持ちであり続けることが我々の仕事です」

(ライター・浴野朝香)

AERA 2023年2月13日号