AERA2023年1月16日号より
AERA2023年1月16日号より

 2023年度から5年間の防衛費がこれまでの1.5倍の43兆円となる。台湾有事が懸念されているが、本当に起きるのか。武力衝突は何をもたらすのか。AERA 2023年1月16日号の記事を紹介する。

【写真】対戦車ミサイル「ジャベリン」の実射訓練の様子

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 1972年当時の田中角栄首相と中国の周恩来総理との日中共同声明で「日本国政府は中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であることを承認する」「中華人民共和国政府は台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府はこの中華人民共和国政府の立場を十分理解し尊重する」との文書に調印して国交を正常化した。それをほとんど忘れたような言説が多いが78年にも当時の園田直外相が日中平和友好条約で前回の共同声明を再確認し、国会がその条約を承認、批准された。憲法98条は「日本国が締結した条約はこれを誠実に遵守(じゅんしゅ)する」と定めているから、もし中国と台湾が戦ってもそれは官軍が西郷隆盛軍を討伐したと同様の内戦であり、日本が台湾の反政府勢力に加担すれば憲法違反となる。

 世界では180カ国が中華人民共和国と国交を結び、中華民国(台湾)を認めているのは14カ国。米国も「一つの中国」政策を守ることを何度も声明しているから、台湾防衛を念頭に日米が共同演習をすることを公言するのは矛盾だ。防衛省に「どう法的に整理しているのか」と問い合わせたところ、3日後に「省内でも協議したが分かりません。条約のことは外務省に聞いてください」と言ってきた。外務省の条約課に聞くと共同声明と平和友好条約を読みあげたので、「それは分かっている。台湾有事を念頭に置いた共同演習はいかがか」と言うと「演習をしているのは外務省ではなく防衛省だから、そちらに聞いてほしい」と典型的な「キャッチボール」になり、「そうしか答えられまい」と笑うしかなかった。

■愚策に出る公算は低い

 もし中国が台湾を攻撃する際、沖縄や尖閣諸島など南西諸島を一方的に攻撃すれば中国の条約違反で、日本が反撃するのは合法となるが、中国がそのようなことをすれば「反政府勢力を討伐する内戦だ」との大義を失い、米国、日本の介入を招くから中国がそれほどの愚策に出る公算は低いだろう。

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