味坊(アジボウ)/東京都千代田区鍛冶町2-11-20/中国東北地方の家庭料理店。国内に自社の農園を持ち、パクチーなどを無農薬で栽培している。湯島や御徒町などにも系列店があるほか、インターネットで冷凍の羊肉串や水餃子などを購入可能(撮影/倉田貴志)
味坊(アジボウ)/東京都千代田区鍛冶町2-11-20/中国東北地方の家庭料理店。国内に自社の農園を持ち、パクチーなどを無農薬で栽培している。湯島や御徒町などにも系列店があるほか、インターネットで冷凍の羊肉串や水餃子などを購入可能(撮影/倉田貴志)
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 本場そのままの味が楽しめる中華料理店の人気が高まっている。日本人向けにアレンジしていない“ガチ中華”と呼ばれるジャンルだ。立ちのぼる湯気の先に、未知の世界が広がっている。AERA 2023年1月2-9日合併号より紹介する。

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 階下から、食欲をそそるクミンの香りが漂ってきた。やがて、焼きあがった羊肉の串焼きが運ばれてくる。木串にかぶりつくと、炭火でしっとりと焼かれたラムのうまみが口中に広がった。

 東京・神田の「味坊」は、中国東北地方の家庭料理を提供する店だ。オープンは2000年。黒竜江省出身の梁宝璋さんが「日本の人に羊肉串や東北料理のおいしさを知ってほしい」と店を開いた。狙いは当たり、連日多くの客が店に詰めかける。特に羊肉串は味坊の代名詞で、「日本一有名な羊肉串の店」と呼ばれることもある。

 店の魅力は羊肉だけではない。続いて運ばれてきた「豚バラ肉と白菜漬け煮」は、程よい酸味の優しい味。白菜を1カ月ほど発酵させているという。「板春雨の冷菜」は弾力ある自家製の板春雨と豚肉が食べ応え十分で、辛味も利いている。一皿ごとに違った世界が楽しめる。

 運営会社の多田俊美さんも中国東北地方出身。東北家庭料理は体に染みた懐かしい味だそう。

「羊肉や煮込みなど多様な味が東北家庭料理の魅力です。中国で食べているそのままの味を提供していますが、日本のお客様も『珍しいもの』というより『おいしいもの』を食べに店に来てくれる。変わらない味を、これからも提供していきます」

■三国時代の到来か

 ここ最近、こうした日本人向けにアレンジしていない本場の味を楽しめる中華料理店の人気が高まっている。「ガチ中華」と呼ばれるジャンルだ。

 リクルートが運営する調査研究機関「ホットペッパーグルメ外食総研」が22年6月に行った調査では、ガチ中華について「行ったことがあり好き」「行ったことはないが行ってみたい」と答えた人が合わせて60.8%に上った。昔ながらの町中華(83.7%)には及ばないが、円卓の個室があるような高級中華(67.5%)に迫る数字で、同総研の有木真理上席研究員は「中華料理三国時代が訪れるかもしれない」と指摘する。

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