米ニューヨーク州にあるIBMの施設を訪れたバイデン大統領/10月6日(photo AP/アフロ)
米ニューヨーク州にあるIBMの施設を訪れたバイデン大統領/10月6日(photo AP/アフロ)

 米国では南北戦争から150年余りの時を経たいま、「第2次内戦」の可能性が指摘されている。どのようなシナリオで、背景には何があるのか。『「断絶」のアメリカ、その境界線に住む』(朝日新聞出版)の著者が綴る。AERA 2022年10月31日号の記事を紹介する。(前後編の後編)

【写真】ミシガン州で開かれた集会に登場したトランプ前大統領

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「第2次内戦」が起きるとすれば、それはどのように始まるのだろうか。

 カリフォルニア大学サンディエゴ校の政治学者バーバラ・ウォルター氏は、著書『How Civil Wars Start(内戦はどう始まるか)』の中でこんな仮想シナリオを提示している。

 2028年の大統領選挙でカマラ・ハリス氏が勝利し、初のアフリカ系・アジア系女性大統領の誕生が決まる。

 その1週間後、ウィスコンシン州議会の議事堂で下院議長が演説中に、突然大きな爆発が起きる。爆発はミシガン州など複数の州議会議事堂でも同時に起きていた。

 数日後、ネット掲示板「8kun」には、

「マイノリティーとエリートの極左政治家が国を乗っ取ろうとしている」

 と訴えて蜂起を呼びかける匿名の文書が投稿される。各地では右派の民兵組織による攻撃が起こり、対抗する左派の民兵組織もつくられていく。そして国民は、どちらの側につくか選択を迫られるようになる──。

 ウォルター氏はこう指摘している。

「米国では内戦というと南北戦争を想起するが、あのような形の内戦は起こりえない」

『「断絶」のアメリカ、その境界線に住む ペンシルベニア州ヨークからの報告』著・大島隆
『「断絶」のアメリカ、その境界線に住む ペンシルベニア州ヨークからの報告』著・大島隆

 統率された軍同士が地上で大規模な戦闘を繰り広げるようなものではなく、緩くつながった民兵組織などの集団が、政府機関や政治指導者に対するテロ攻撃やゲリラ戦を仕掛けるというのが、ウォルター氏を始めとする多くの識者が想定する「内戦」の姿だ。

 バイデン政権と一部の共和党知事が、移民政策や新型コロナ対策、妊娠中絶などをめぐって激しく対立するなかで、州政府と連邦政府の戦いを想定する発言も出ている。

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