※写真はイメージ(gettyimages)
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 行動制限のない夏、帰省の準備をしている人も多いのでは。久々に顔を合わせるからこそ、いまのうちから一緒に考え、整えておくことで、お互いが安心できることがある。例えば「親の一人暮らし」。家族はどう向き合えばいいのだろうか、専門家がアドバイスする。AERA 2022年8月15-22日合併号の「実家メンテナンス」特集から。

【帰省時にやっておきたいことはこちら】

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 奈良県の専業主婦の女性(58)は、2021年2月、広島県の実家に住む母(82)を亡くした。肺が悪く、余命宣告を受けていた。だが、自分の方が先に逝くつもりだった父(87)の落ち込みは大きかったという。

 気難しいタイプではなく、器用で、料理もできる。趣味の畑で、ナス、トマト、モロヘイヤなどを育てる元気もある。ただ、友人や地域とつながりはなく、母が亡くなって以降は丸一日、誰とも話さなくなった。

「心配です。今からサークル活動などは難しそうだし、老人ホームも嫌がるでしょう」

■「負担をかけたくない」

 弟は東京で働いているため、女性が3週間に1度のペースで広島に通って様子を見るほか、午後7時20分ごろ電話をかけることを日課にしている。

「晩ご飯は何を食べたの?」「お薬飲んだ?」

 話すのは、そのくらい。ただ、先日の参院選の投開票日に、女性が投票に出かけたまま電話をするのを忘れていたところ、珍しく父からかけてきた。「電話がないと風呂に入れない」とぽつり。電話をそれなりに楽しみにしてくれてはいるようだ。

「食事が取れているかを確認することはとても重要です」

 そう、佛教大学の新井康友准教授(高齢者福祉論)は話す。

「法医学の現場では、死因不明で亡くなった高齢者を解剖すると、胃の中に男性はおつまみ、女性はお菓子しかないケースが多いといいます。食事がきちんと取れていない証拠です」

 死別、離婚、子どもの独立。様々な理由で、親が一人暮らしとなることがある。

 年齢の上昇に比例して心配ごとが増える中、一番の気がかりは「亡くなる」ことだろう。

「一人暮らしの高齢者が誰にも看取られずに亡くなることは、驚くことではありません。むしろ、看取ってもらう方が珍しい。亡くなった後、いかに早く発見できるか。その仕組みを作っておくことが重要です」(新井准教授)

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