AERA 2022年8月15ー22日号より
AERA 2022年8月15ー22日号より

 牛乳や新聞の配達、食事の宅配サービスなどを利用して、生活の中で定期的に誰かと接触する機会を持つことが有効だという。

 だが、その網目からこぼれ落ちてしまう人たちもいる。

 関西地方で介護ヘルパーとして働く女性(39)の訪問先は、現在約40軒。その多くが一人暮らしだ。入浴介助や食事の世話など身の回りの世話をしたり、離れて暮らす子どもや孫の話題で盛り上がったり。

「共通しているのは子ども世代に負担をかけたくないという思い。一番心配なのは、介護が必要な病気はなく、公的サービスを何も受けていない人です」(介護ヘルパーの女性)

 女性の義母(70)は、かつてはローカル歌手の「おっかけ」をするなど活動的だったが、約15年前に夫を亡くしてから少しずつ外出が減り、最近では家にこもっていることが多いという。

「テレビをずっと見ているだけ。孫2人(女性の子ども)が大学生と高校生になり、昔ほど頻繁(ひんぱん)におばあちゃんを訪ねることもなくなった」

■残された人生を楽しむ

 社会からの孤立は、うつ病や認知症のリスクを高めるとされる。

 現代の70歳はまだまだ若いはずだけれど、何から始めればいいのだろうか。

「ひとりだからこそできることを満喫してほしい」

 シニア生活文化研究所代表理事の小谷みどりさん(53)は、そうエールを送る。自身は11年4月、夫(当時42)を突然亡くした。シンガポールに出張に出かけるはずの朝、起きてこないので寝室を見に行くと、もう息がなかった。

「思考が停止しました。今も信じられない」

 死生学の研究者として講師を務める立教セカンドステージ大学で15年、受講生とともに「没イチ会」を結成。以来、ひとりになった人たちと向き合ってきた。遺品はどうする、義実家とどう付き合うか、再婚したいか──。話題はさまざまだが、一貫しているのは、残された人生を楽しもうというスタンスだ。メンバーは、美術館の案内ボランティアを始めたり、全国の西洋庭園を見て歩き、ガーデニングにいそしんだりしているという。

 小谷さんは、周囲の家族へこうお願いしている。

「恋人を作っては困る、ひとりでうろうろしては危ない、などと行動制限するのではなく、あたたかく見守ってほしい」

 それが「ひとり」を生き抜く力になるという。(編集部・古田真梨子)

AERA 2022年8月15-22日合併号