ゲノム医療がもたらす「遺伝子差別社会」のリスク 「究極の個人情報」とどう向き合うか

2022/07/08 18:00

図解を見せ、イラストも描きながら遺伝の仕組みを解説する遺伝カウンセラーの田辺記子さん。「親からの遺伝ではなくても、誰でもがんになる可能性はあると知ってほしいです」(撮影/古川雅子)
図解を見せ、イラストも描きながら遺伝の仕組みを解説する遺伝カウンセラーの田辺記子さん。「親からの遺伝ではなくても、誰でもがんになる可能性はあると知ってほしいです」(撮影/古川雅子)

 ゲノム医療の進展で、遺伝子を調べることによって病気の発症を予防し、最適な治療も模索できるようになった。朗報の一方で、社会の理解が追いついておらず、当事者たちは差別や偏見、社会的不利益を被るリスクも抱えている。AERA 2022年7月11日号の記事を紹介する。

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 がんと遺伝子の分野で新たな節目を迎えていることがある。2021年から走りだしている国家的な大規模プロジェクト、「全ゲノム解析等実行計画」だ。一方で19年から、それぞれの患者に合った最適な治療を行う「精密医療」の実現に向け、がん関連遺伝子を一度に解析する「がん遺伝子パネル検査」に保険が適用されている。国立がん研究センター研究所長の間野博行さんは、こうしたがん遺伝子パネル検査を受けた際、「思いもよらず、自分が遺伝性のがんの原因となる遺伝子変異を持っていることがわかってしまう」という事例が年々出てきていて、今後大きな課題になると指摘する。

「がん遺伝子パネル検査で遺伝性のがんのリスクがわかれば、予防策を立てられ、家族も救えるかもしれない。一方で、その情報は患者さんの『究極の個人情報』。医療や研究に活用する場合には適切に管理されなければなりません。さらに差別防止の法や自主ルール作りの対応を取ることは、これから欠かせない社会的な基盤整備だと私は思っています」

 大阪に住む谷島雄一郎さん(44)は、実際にパネル検査を受ける際、遺伝性のがんだとわかる可能性を知った。谷島さんは、娘が生まれる直前の12年に「GIST(消化管間質腫瘍)」という希少ながんが見つかった。食道を全摘し、肺の一部を切除したものの、1年後に再発。さまざまな治療を繰り返しながら「防戦中」だ。自分に合う治療につなげられればとパネル検査を受けようと考え、19年に保険診療で検査を受ける機会を得た。事前に書類を渡され、もし、新たに遺伝性のがんがわかったら、家族に知らせてよいかを問われた。谷島さんはこう話す。

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