5月23日の日米首脳会談(東京)は、台湾有事に関する発言に注目が集まった。バイデン米大統領の真意は何なのか。早稲田大学の中林美恵子教授に聞いた。AERA 2022年6月6日号の記事を紹介する。

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──バイデン大統領は岸田文雄首相との共同記者会見で、中国が台湾に侵攻した際に米軍が台湾防衛に軍事的に関与するのかと問われて「イエス」と答え、「それが我々のコミットメント(誓約)だ」と明言しました。

 またか、と思いました。これまでもバイデン大統領は就任以降、少なくとも今回で3回、やはりメディアに同じことを聞かれて「イエス」と答えています。そしてこれもまた必ずその後で、ホワイトハウスが「我々の政策に変更はない」と従来通りであることを強調してきました。

──米国の歴代政権は、台湾有事の際の対応を明確にしない「あいまい戦略」と呼ばれる政策を取ってきました。

 そうです。ただ、バイデン大統領が「イエス」と言った時の演説を見ていて、本音だろうと思いました。表情は真剣で、その後に畳みかけるように「それが我々のコミットメントだ」と念を押しました。

■白黒単純に判断せず

──バイデン大統領の本音とはどこにあるのでしょう。

 これまで通りの「あいまい戦略」では、中国に誤ったシグナルを与えると個人的には考えているのだと思います。中国が昔のままの中国であれば、あいまい戦略の継続がベストです。けれど中国が大きく変化した今、あいまい戦略のままでは紛争の危機は高まります。特に中国の台湾に対する野心は抑止しておかなければいけません。あいまいなままだと、中国に一歩先に進む口実を与えかねません。

──米中間の複雑な関係が読み取れます。

 バイデン大統領はトランプ前大統領のような物事を白黒単純に判断するようなことはしません。中国に対して毅然(きぜん)と対応しながら、コミュニケーションのパイプはキープしていなければならないと考えています。

 では日本はどう対応すればいいかといえば、米国以上に外交や安全保障、情報、経済も全て駆使しての中国に対する高度な戦術が求められます。そのために必要不可欠なのが、米国の核の傘による「拡大抑止」で日本の安全を保障することです。

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