ブチャの自宅アパートの扉の横には大きな穴が開けられ、強奪されていた(写真/バルダブッシュさん&ストーンさん)
ブチャの自宅アパートの扉の横には大きな穴が開けられ、強奪されていた(写真/バルダブッシュさん&ストーンさん)

 3月末、バルダブッシュさんはボディーアーマーを調達してスーツケースに入れると、ラスベガスを飛行機で出発。ポーランド国境に到着し、救援物資を届ける人道支援グループの車に同乗して、ロシア軍が去ったばかりのブチャの街に向かった。

 幹線道路はウクライナからポーランドに避難しようとする人々で大渋滞していたが、反対方向のブチャに向かう車は、ほぼ皆無だった。

「黒焦げになった戦車や車のすすけた匂いが喉まで強烈に迫ってきた。ブチャの街に着くと道端に死体がひとつ横たわっているのが見えた」(バルダブッシュさん)

 アパートの自宅のドアの横の壁には人が通れる大きさの穴が開いていた。室内に一歩入ると、バルダブッシュさんは絶句した。

「部屋中のありとあらゆる引き出しが荒らされていた。寝室も台所もリビングも。引き出しの奥の下着まで物色され盗まれていた。女性の下着を一体どうするつもりだったのか……」

■美しい街にロシア兵の落書き

 彼女が強奪された室内の様子をスマホで撮影していると、同行してくれたウクライナ軍の兵士にこう言われた。

「略奪後、ロシア軍は部屋のどこかに地雷を設置していくのが常だ。被害の様子を確かめて部屋を歩き回ると地雷を踏んで身体ごと吹っ飛ぶ可能性が高い。危ないからすぐ部屋から出て」

 それから2週間経った4月12日現在もまだ自宅に戻れていない。アパートの地雷除去が終わっておらず、破壊されたブチャの街には水も電気もガスもWi-Fiもないからだ。

 別のアパートの外壁には、ロシア兵が残したこんな落書きがあった。

「なぜ、こいつらは、こんないい生活をすることが許されているのか」

 ロシア軍侵攻前、キーウから車で30分離れた閑静なベッドタウンのブチャには、新しいコンドミニアムが建設されていた。森もあり緑豊かで住環境は抜群だった。

 妹のストーンさんは言う。

「街を強奪したロシア兵が、自分の妻に携帯で電話して『ジュエリーを土産に持って帰るから』と話す音声の録音がネット上に存在している」

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遺体の下にも地雷を入れるロシア軍…