エッフェル塔近くのトロカデロ広場を行き交う人びと/2021年12月31日、パリ(写真:Antonio
エッフェル塔近くのトロカデロ広場を行き交う人びと/2021年12月31日、パリ(写真:Antonio Borga/Anadolu Agency via gettyimages)

 フランスの知性である歴史家、人類学者のエマニュエル・トッド氏。トッド氏が最新作で取り上げたテーマは「女性の解放の歴史」だった。人間の長い歴史の中で女性の解放は今どんな地点にたどり着いているのか。ジャーナリストの大野博人氏がオンラインでトッド氏に聞いた。AERA 2022年1月31日号は「性と社会」特集。

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──この本を書くきっかけは?

 1951年生まれの私がバカロレア(大学入学資格試験)を受けたのは68年。この年はじめて、女性の合格者が男性を上回りました。私は、男女の平等は当然だと考える世代に属しているのです。

 しかし、#MeToo運動にショックを受けました。男女間を対決的に考える運動はフランスにはなじまないと思ったからです。でも、歴史家、人類学者としてはこのテーマに興味がわきました。

──本では、今のフェミニズムの動きを逆説的と指摘していますね。女性解放の目的がほぼ達成されつつあるときに激しい異議申し立て運動が起きていると。目的達成とはどういう点で?

 本で主に研究対象としているのは狭義の西欧(英米、フランス、北欧)ですが、たとえばフランスの政界を見ても女性議員の数は急速に増えています。閣僚もそう。次の大統領選挙では、ヴァレリ・ペクレス氏が初の女性大統領になる可能性だって出てきています。あらゆる職業に女性は進出しています。

 もちろん、男性が抵抗している領域はまだあります。民間企業の幹部、資本主義の担い手たち……。まだしぶとく残る男性支配の薄皮はあります。

 けれども、男女平等への動きはかなり前から進んでいます。バカロレアの例でわかるように、高等教育の領域で女性が男性を追い越したのが私の世代。もう50年以上前です。今、女性は男性よりさらに多い。

Emmanuel
Emmanuel Todd/1951年生まれ。家族構造や人口動態などのデータで社会を分析し、ソ連崩壊などを予見してきた

■女性生きる環境は複雑

 この結果、妻の方が夫より社会的に上位に立つカップルが増えています。女性が自分より年上で学歴があり金持ちの相手と結婚するハイパガミー(上昇婚)は今や過去のモデルで、今は逆にハイポガミー(下降婚)があちこちで見られます。私の友人の政治家もそれは自分のことだと言っていましたよ。

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