新型コロナの後遺症治療の前線に立つ国立精神・神経医療研究センター神経研究所の山村隆・特任研究部長(右)
新型コロナの後遺症治療の前線に立つ国立精神・神経医療研究センター神経研究所の山村隆・特任研究部長(右)

 ME/CFSの外来診療にあたってきた山村さんのもとには、40歳前後を中心に新型コロナの後遺症に悩む患者が全国から訪れている。それだけ症状が似ているからだ。米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長も2020年7月の会見で、後遺症に悩む人の症状について「ME/CFSの患者にみられる症状に似ている」と言及している。

 山村さんは言う。

「共通する症状は、疲れて仕事に行けなくなることです。無理をして出勤しても、ボーッとしてしまって集中力が全くなく、会議にもついていけない。数行のセンテンスも頭に残らないため、本も読めない。労災申請の書類も書けない人がいます」

■「自己免疫反応」に注目

 ME/CFSは本来、体内に入ってきた異物を攻撃するはずの抗体が、間違って自分の体のたんぱく質を攻撃する「自己免疫反応」によって、免疫が正常に働かなくなるために引き起こされると考えられている。

 山村さんらの研究グループはこの点に着目。15~19年にME/CFSの患者89人の血液中の自律神経に反応する自己抗体濃度と、脳内構造ネットワークの関連を調べた。その結果、自己抗体の濃度が高いほど脳のネットワーク構造に多くの異常が起きていることを確認。具体的には交感神経系のβ1、β2と呼ばれる受容体の抗体の濃度が高いほど、ME/CFSを発症する脳の特定の部位の異常が顕著に見られることを明らかにした。

「新型コロナでも様々な自己抗体の血中濃度が高い患者が報告されています。新型コロナ感染後の倦怠感やブレインフォグも、自律神経が関係する脳の血流障害、つまり自己免疫反応によるものがかなりの割合を占める、とほぼ確信しています」

 山村さんがこう話すのは、いわゆる「免疫療法」で症状が緩和されるケースを確認しているからだ。医療現場でいま試みられているのは上咽頭(いんとう)擦過療法。耳鼻科では多くの患者に鼻の奥の上咽頭に炎症が確認される。この患部を洗浄する治療法だ。

■海外では10%超に症状

「上咽頭の炎症を治療することで症状が改善するケースがかなりあるようです。上咽頭の炎症で出る炎症物質はブレインフォグの誘因かもしれず、炎症を取り除くことで脳への悪影響を緩和できる可能性があります。また、上咽頭の周囲には脳神経の迷走神経が走っており、上咽頭擦過療法では自律神経が刺激されます。これが脳血流を増やすことにつながりブレインフォグを改善させるのではないか、と考えています」(山村さん)

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