火災のあったクリニック(AERA 2022年1月3日号-1月10日合併号より)
火災のあったクリニック(AERA 2022年1月3日号-1月10日合併号より)

 多くの命が奪われた大阪の雑居ビル放火殺人事件。なぜ被害が大きくなったのか。背景には防火体制の盲点があった。AERA 2022年1月3日-1月10日合併号から。

【要チェック】火災から命を守る!避難対策チェックリストはこちら

*  *  *

 大阪・北新地の雑居ビル4階のクリニックで12月17日に起きた放火による火災では、防火体制の「盲点」も指摘された。

 大阪市消防局によれば、直近(2019年3月)の定期検査では、同ビルで防火上の不備は確認されていない。スプリンクラーはなかったが、法令上では原則11階以上の大規模施設が設置対象で、8階建ての今回のビルは対象外だった。

 だが、スプリンクラーがあれば、素早く消火できた可能性がある。防災・危機管理アドバイザーで「防災システム研究所」(東京都)の山村武彦所長によれば、設置するには貯水槽や加圧ポンプ、非常電源など数千万円の費用がかかるが、比較的安価で設置できる方法もあるという。

「水道管直結の簡易型スプリンクラーは、1フロア数十万円で設置が可能です。少しでも犠牲者を減らすためにも、消防法を改正し、雑居ビルのような小規模な建物にも簡易型スプリンクラーを設置すべきです」(山村所長)

 離れた場所に複数の出入り口を確保する「2方向避難」ができなかったことも、被害を大きくしたとされる。建物火災と都市防災に詳しい、神戸大学都市安全研究センターの北後(ほくご)明彦教授は指摘する。

「火災があったビルには階段が1カ所しかなく、その逃げ道付近で火災がありました。それなのに、他に避難経路を用意できていなかったことが被害を大きくした要因だと思います」

 火災現場となったビルはフロアの奥行きが深く、全国どこにでもある構造だ。被害者はクリニックの奥に集中していたが、炎と煙とで逃げ道を塞がれ、奥に向かったと見られている。

■「公的支援が不可欠」

 建築基準法では、原則6階以上のビルは地上につながる階段を二つ以上設置するよう定めている。この基準は1974年1月以降に着工されたビルが対象で、今回のビルは8階建てだが70年の建設。同法の基準に該当しなかった。しかしこれまでも、01年9月の東京・新宿のビル火災をはじめ、複数の被害者が出た雑居ビル火災で階段が一つだけだったケースが多いことが指摘されていた。

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら
次のページ