藤井聡太三冠 (c)朝日新聞社
藤井聡太三冠 (c)朝日新聞社

 藤井聡太三冠が竜王戦7番勝負で3連勝し、史上最年少の四冠に王手をかけた。一方、3連敗を喫した豊島将之竜王が4連勝し、大逆転する可能性はあるのか。AERA 2021年11月15日号から。

【写真】藤井聡太三冠が竜王戦第3局で選んだおやつは?

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 藤井聡太三冠(19)のタイトル戦番勝負での成績は20勝4敗(勝率8割3分3厘)となった。七番勝負なら4勝3敗、五番勝負なら3勝2敗でよい頂上決戦で5勝1敗ペースなのだから、手がつけられない。藤井がこのまま竜王位も含めて四冠となれば、渡辺明三冠(名人・棋王・王将、37)を抜いて将棋界の席次1位となる。本格的な藤井時代の到来は、間近に迫りつつある。

 時代の大きな転換点で、若き挑戦者が年長の王者を圧倒するのは、将棋界では繰り返し見られてきた光景でもある。

 たとえば1994年の名人戦七番勝負。当時のタイトル七つのうち四つを保持する羽生善治四冠(当時23)は米長邦雄名人(当時50)に挑戦。一気に3連勝した。米長も意地を見せたが、最後は羽生が4勝2敗で新名人の座に就き、五冠となった。当時の文献には、こんな言葉が躍っている。

「本格的な羽生時代の到来である」

「カド番」とは番勝負であと1敗すれば敗退が決まる状況を表す。元々は将棋、囲碁の世界で使われ始めた言葉だ。豊島将之竜王(31)は一気にカド番に追い込まれた。

「内容をよくしていって一局でも多く指せるようにと思います」

 豊島は第3局のあと、言った。

 豊島と藤井は多くの共通点がある。愛知県出身。年少の頃から次代を担うと目された逸材。10代半ばで四段昇段。若くしてタイトル戦に登場。普段は穏やかなところもまた似ている。

 一方、藤井が史上最年少17歳でタイトルを獲得したのに対し、豊島は28歳、5回目の挑戦で初戴冠(たいかん)を果たした。豊島の将棋人生は長く逆境の中にあった。

「藤井新竜王誕生はほぼ確定」

 そんなムードも漂う中、豊島に大逆転の目はあるだろうか。

 タイトル戦で現代的な七番勝負が行われるようになって以来、80年以上の時が経った。その間、一方が3連敗した後、4連勝した例は2度しかない。その数少ない例をたどってみよう。

 最初は2008年竜王戦。渡辺に羽生が挑み、シリーズを制したほうが初代永世竜王の座に就くという歴史的な勝負だった。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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