エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 選挙の話になると、若者世代と高齢世代の価値観の違いや人口バランスの偏りが話題になります。若者の投票率の低さに加え、高齢人口が圧倒的に多いため、若い世代のニーズに応える政策が優先されないという問題です。

 スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが16歳の時にたった一人で始めて世界中に広がった「気候危機に今すぐ行動を」と政治家や産業界に訴えるアクションは、選挙権のない子どもたちによる意思表示でした。思慮に欠ける大人の行動で自分たちの未来が台無しにされる理不尽さに、子どもたちが声をあげたのです。賛同した大人も数多くいました。

社会の未来は全員にとって現在と地続きだ。衆院選は今秋11月に行われる見通し (c)朝日新聞社
社会の未来は全員にとって現在と地続きだ。衆院選は今秋11月に行われる見通し (c)朝日新聞社

 子どもの未来、ってよく使う言葉ですね。けど「子どもの未来」と「大人(私)の未来」は別物ではありません。今の小学生が大人になる頃にも、今の大人たちの大半はまだ生きています。元小学生が現役世代として回している世界に、元大人は高齢者として暮らしています。それぞれの人生の風景は異なっても、違う宇宙に生きているわけではありません。高齢者の生活を左右するのは、元・子どもたちの意思決定です。「子どもたちの未来のために」は自分の未来のためでもあるのですね。

 街で若者に舌打ちする大人は、その若者が20年後に自分のがんの手術を執刀したり、介護士としてオムツを替えてくれたり、高齢者福祉の法律を作る議員になるかもしれないと考えてみるといい。どんな人たちに命を託したいか、その人たちがどんな価値観を持っていれば、弱者となった自分は安心できるのか。

 もし「親切にしてくれた世の中の役に立ちたい」と考える人が多ければ、社会は健全に持続するでしょう。赤ん坊も大人も、同じ時空で年齢を重ねます。お金持ちもそうでない人も、地球から引っ越せません。残念ながら、未来は一つしかないのです。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2021年9月20日号

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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