事故現場付近の実況見分に立ちあう旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長=2019年6月13日、東京都豊島区(C)朝日新聞社
事故現場付近の実況見分に立ちあう旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長=2019年6月13日、東京都豊島区(C)朝日新聞社

「判決が出た瞬間、涙が出ました。私たち遺族がこの先、少しでも前を向いて生きていけるきっかけになり得るなと思いました」

 9月2日午後。松永拓也さん(35)は、都内の会見場でそう語った。

 東京・池袋で2019年4月、乗用車が暴走し通行人を次々とはね、松永さんの妻・真菜(まな)さん(当時31歳)と娘・莉子(りこ)ちゃん(当時3歳)が死亡した。事故を起こし、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われた旧通産省の元幹部・飯塚幸三被告(90)に対し、この日、東京地裁で判決が言い渡された。

 事故から約2年半、初公判から約10カ月。

 最愛の2人を亡くした松永さんはここまで、言葉にできない悲しみや苦しみ、絶望を味わってきた。死んだほうがいいと思うこともあった。それでも多くの人に支えられながらやってきた。

 被告は裁判で「アクセルとブレーキの踏み間違えではない。車に異常があった」と一貫して無罪を主張。しかしこの日法廷は、上限である禁固7年の求刑に対し、禁固5年の実刑判決が下された。被告の過失が全面的に認定されたことになった。

 松永さんは、会見で言った。

「これで2人の命が戻ってくるなら、どんなにいいことかなって思ったらちょっとむなしさが出てきてしまったんですけれど」

 それでも、今回の判決は自分たちが前進していける力になったという。その上で、

「なぜ、こういう事故が踏み間違えで起きたかを裁判官によって認定された。こういう踏み間違えが起きないためには社会がどうなれば良いか、という議論につながるといい」

 とも語った。

 裁判に黒のスーツに車いすで出廷した飯塚被告は、裁判官から「裁判所の認定に納得できるのであれば、まずは被害者、遺族らに自らの責任を認めた上で真摯に謝っていただきたい」と説諭されると、証言台の前で小さくうなずいた。

 控訴の期限は2週間。被告が控訴するかどうか、まだわからない。

 松永さんはこう述べた。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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「2人の命を無駄にしないために…」