■いまだ不正選挙を主張
「2020年大統領選挙の詐欺」「報道機関は腐っている。選挙の不規則さやペテンについて何も報道しない」「有権者が犯したペテン」「ゴミのような報道」──。
ツイッターやフェイスブックなどSNSから「追放」されたトランプ氏が、支持者向けに毎日送ってくるメールの声明は、いまだに20年選挙が不正だったとする言葉であふれている。
声明には、内容を後押しする極右系テレビ「ワン・アメリカ・ニュース・ネットワーク(OAN)」の記事リンクが張られている。つまり、トランプ氏とその支持者らは、彼が大統領だった時と同じような「バブル」の中に住んで、固い絆で結ばれている。
テキサス州など共和党系の知事が主導する州では、24年に「不正選挙」が起きるのを防ごうと、有権者の投票権を事実上制限する州法を次々に強化している。例えば、開票の際に民主と共和の両党の代表がいなくてもよいと規定したり、投開票所の指導者や監視役を、選挙管理委員会ではなく自治体が指名してよいとした措置だ。不正を防ぐとしているものの、公正で透明な選挙システムを妨害する措置がすでに十数州で成立している。
これに対し、バイデン大統領は7月13日、投票制度を全米で見直す選挙改革法案の連邦議会通過が「国家的な急務」だと訴えた。トランプ氏や共和党幹部の不正選挙という主張は「大きな嘘は、大きな嘘でしかない。(中略)米国では選挙に負ければその結果を受け入れ、憲法に従い、再び挑戦する。結果に不満というだけで事実をフェイクと呼び、結果を無効にしようと試みたりはしない。これは政治家のやることではなく、利己的なだけだ」と退けた。
その2日後には有権者の権利を求めるデモを行った黒人の下院議員が逮捕された。
まだ3年先の大統領選挙について、両党の激突が起きているのは、不安の種でしかない。新型コロナからの経済回復を謳歌(おうか)しているかのような米社会は、実は新たな危機に瀕している。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)
※AERA 2021年8月2日号