(左から)藤井聡太(ふじい・そうた):2002年生まれ、愛知県出身。名古屋大学教育学部付属高校を今年1月末で退学したことでも話題を呼んだ/渡辺明(わたなべ・あきら):1984年生まれ、東京都出身。「現役最強の棋士」の呼び声も高い。趣味はカーリング、競馬など多彩 (c)朝日新聞社
(左から)藤井聡太(ふじい・そうた):2002年生まれ、愛知県出身。名古屋大学教育学部付属高校を今年1月末で退学したことでも話題を呼んだ/渡辺明(わたなべ・あきら):1984年生まれ、東京都出身。「現役最強の棋士」の呼び声も高い。趣味はカーリング、競馬など多彩 (c)朝日新聞社

 藤井聡太(18)が第92期棋聖戦五番勝負で渡辺明(37)と対戦し、初防衛に挑む。「国民的スーパースター」である藤井と、「現役最強の棋士」の呼び声が高い渡辺の頂上対決に、将棋ファンは沸いている。昨年、藤井から棋聖位を奪取された渡辺にとってはリターンマッチの意味合いもある。AERA 2021年6月7日号で、過去の対戦や実績から二人を分析した。

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 渡辺は羽生善治九段(50)らを中心とする黄金世代とはちょうど一回り下の年齢にあたる。渡辺は同世代の中で一人、ほとんど孤軍奮闘する形で、羽生らの世代と好勝負を繰り返してきた。

 時代は移り、渡辺はタイトル戦で年下を相手にするようになった。渡辺は現在、名人戦七番勝負で年下の斎藤慎太郎八段(28)を挑戦者に迎えて戦い、3勝1敗でリードしている。アエラ本誌が発売される頃には、もしかしたら渡辺の名人防衛が決まっているかもしれない。

 渡辺は年下を相手に高い壁となり、圧倒的な強さを発揮し続けてきた。タイトル戦で年下に敗れたことは、ただの一度しかない。昨年の棋聖戦で、藤井を相手にしたときだけだ。

 藤井の通算成績は217勝41敗で勝率8割4分1厘(5月30日現在)。デビュー以来4年連続で勝率8割を超える成績をマークした。これは空前の大記録であり、過去にこれほどのペースで勝っている棋士はいない。「絶後」という言葉は安易に使うべきではないが、藤井ほどの棋士が後世に現れる可能性はどれだけあるだろうか。藤井は将棋界の主だった記録を塗り替えながら、大棋士への歩みを着々と進めている。棋聖戦も藤井防衛と予想する人も多いだろう。

■力関係は決められない

 藤井と渡辺の過去の対戦成績は藤井5勝、渡辺1勝。藤井が大きくリードしている。このデータも藤井有利の根拠となりそうだ。ただし、まだ少ない局数で力関係を決めることはできない。トップクラス同士であれば、数十局以上もの対局を重ねてようやく格付けがはっきりする。

 昨年の五番勝負はなるほど、藤井のあまりの強さに目をみはらされた。とはいえ昨年度名局賞に選出された第1局などは、渡辺が強かったからこそ、感動的な熱戦になったともいえる。

 今年の朝日杯将棋オープン戦準決勝(早指し棋戦)では藤井が大逆転勝利を収めた。しかし、途中までは渡辺が完璧なゲームプランで勝勢を築いていた。勝負に「たられば」はないが、もし時間に余裕があれば、渡辺圧勝でもおかしくはない内容だ。

 藤井のスタイルは一貫して「王道」だ。どんな相手であっても自らのプレースタイルを変えることなく、どんな戦型でも正面から受けて立つ。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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