ヤマザキマリ/漫画家、随筆家。1967年、東京都生まれ。コロナ禍前まではイタリア在住。著作に『国境のない生き方』など(撮影/写真部・加藤夏子)
ヤマザキマリ/漫画家、随筆家。1967年、東京都生まれ。コロナ禍前まではイタリア在住。著作に『国境のない生き方』など(撮影/写真部・加藤夏子)
池上彰(いけがみ・あきら)/ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。著書に『なんのために学ぶのか』『池上彰の世界を知る学校』など(撮影/岸本絢)
池上彰(いけがみ・あきら)/ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。著書に『なんのために学ぶのか』『池上彰の世界を知る学校』など(撮影/岸本絢)

 森喜朗氏の女性蔑視発言問題をどうとらえたらいいのか。AERA 2021年3月1日号で、池上彰さんとヤマザキマリさんの二人が対談した。

【写真】池上彰さんはこちら

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池上彰:森喜朗氏の女性軽視発言が発端となった辞任騒動は、いかにも日本的だなって思ったのですが、ヤマザキさんが暮らされていたイタリアではどう報道されているんでしょうか。

ヤマザキマリ:イタリアには汚職や女性スキャンダルが絶えなかったベルルスコーニという人が9年間政権を握った時期がありますので、あまり比較になりません(笑)。もちろんこの件はイタリアでも報道されましたし、「ネットに出ていたけど先進国とは思えない発言だったね」などと私の家族からも言われましたが、こういう差別問題は簡単には直らないというのが、長期にわたる人間社会の歴史を経てきた彼らなりの定義なのでしょう。

池上:そうなんですね。その一方でヤマザキさんご自身はどのように感じましたか。

ヤマザキ:それまでに森さんが女性問題に関しての意識をいつも慮ってしゃべっているかというと、そんな感じもしていなかったので、聞いた時には「ああ、やっぱり」という思いでした。現代の日本の女性がどういう言葉に敏感になっているのか、彼には大した問題じゃないってことなんだなと。

 例えば古代ギリシャで発生したアテナイの民主主義は紀元前5世紀に遡りますが、弁証法などにそこに紐づいた教育が未だに欧米では残っています。日本にはもともと日本的な民主政治のフォーマットはあったわけですが、明治維新から急速に西洋式なやり方が導入されていきました。でも、その二つのエレメントがまだ馴染んでいないことに端を発した齟齬が、森さんの発言からも露呈されたように感じられたのです。日本社会を見ていると、森さんの発言だけでなく、いろんなところから同じような曖昧さや中途半端さを感じます。

■対話が根づいていない

池上:実は、あんまり他人事のように言えないところがあったんです。森さんが発言した時に、笑い声が起きたっていう話があるでしょう。もし私があの会議にいたとしたら、「森さん、その発言、今の時代に言ったら駄目なんじゃないですか」って言えたかどうか。ついつい苦笑いをしながら、「ああ、またこんなことを言っている。困ったもんだ」で終わっていたかもしれない、とも思ったんです。

 今回、女性の中にもそういう意見はあって、「自分たちもこれまでずっと男社会の中で、こういう時にぐっと我慢して発言しないできた。それではいけないんじゃないかってことに、今回改めて気がつきました」という発言をしているテレビのキャスターもいらっしゃいますよね。

ヤマザキ:そうですね。今回のような失言が起きた時に、一方的に責める以前にしっかりお互いが理解を訴えるコミュニケーションを取るべきなのに、どうも日本ではまだその習慣が根付いていないのだなと思いましたね。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2021年3月1日号より抜粋