全米郡市保健当局協会(NACCHO)によると、6月上旬までに地方の保健当局の責任者が辞職に追い込まれるなどした例が少なくとも27件あった。

 反発はどこから来るのか。北海道大学の結城雅樹教授(社会心理学)はこう説明する。

「しばしば指摘がありますが、自由の侵害ということがあると思います。慣れていないマスクを『しなさい』と命令されているわけですが、米国人、中でも特に共和党支持者はこうした形の行動の強制をすごく嫌がる傾向があります。権力からの自由というのは、アメリカの国是の一つでもあります」

 その上で、マスクへの賛否が政治思想に影響を受けていることを示すデータもある。

 米世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が6月に4708人の成人を対象に行った調査では、71%の人たちが公共の場では「いつも」、あるいは「ほとんどいつも」マスクを着用するべきだと考えていた。6月といえば、米国では南部を中心に再び感染者が増加傾向となった時期で、多くの人たちがマスクを受け入れ始めたようだ。だが、注目は共和党と民主党の支持者の考え方の違いだ。

 共和党の支持者と共和党寄りの人だけで言えば、52%の人が「いつも」か「ほとんどいつも」を選んだが、民主党の支持者と民主党寄りの人では、86%に達していた。

 前出の志村さんによれば、オレンジ郡ではその後マスクの着用令は撤回されたが、州知事があらためて着用令を出した。ところが、取り締まりを担当するのは自治体の警察や保安官で、オレンジ郡では「取り締まりに力を入れているという実態はないようです」(志村さん)。絶妙なバランスで“分断”や“自由”が担保されているようだ。(編集部・小田健司)

AERA 2020年8月31日号より抜粋