ニューヨーク州のクオモ知事は、州外から訪れる旅行客に2週間の自主隔離を要請した。これまで旅行客の書類記入などは空港だけだったが、車や電車・バスなどでニューヨーク州入りする旅行客はチェックできないという市民の批判から、8月6日からニューヨーク市内の主要駅、市内に通じるトンネル、橋などに保安官や、6月に市内の公立病院・診療所をまとめる公益法人「ニューヨーク市ヘルス+ホスピタルズ」の傘下に新設した新型コロナの検査・追跡・隔離を担当する「テスト&トレース・コー」(検査&追跡団体、TTC)のトレーサーを派遣し、旅行客にチラシを配ったり、チェックを始めたりした。追跡で自主隔離をしていないことがわかれば、罰金は1万ドル(約106万円)と、まさに「鎖国」状態だ。

 TTCに問題がないわけではない。6月から急速に新たな組織を立ち上げ、3千人ものトレーサーを雇用しただけに、混乱も避けられない。ニューヨーク・タイムズは、リーダー格がおらず、まとまりがないため、雇われたトレーサーが自宅勤務であることも手伝ってストレスを抱えていることも報じた。

 さらに、デブラシオ市長とともに記者会見に頻繁に出席していた医師でもあるオキシリス・バルボー保健局長が8月4日、突然辞任した。同局長は、会見で医学的見解を詳しく述べてデブラシオ政権の信頼を高めただけでなく、マスク着用や社会的距離の確保などをテレビCMに出演して訴え、ニューヨーク市が展開する「新型コロナ戦争」の顔だった。同局長は辞任理由を明らかにしなかったが、「追跡・隔離」のノウハウは従来、保健局に蓄積していたにもかかわらず、市長がTTCを新設したことで、市長との確執が深まっていたと地元メディアは伝えている。

 8月上旬現在、ニューヨーク州の新規の感染者数は他州に比べて極めて少ない。「オアシス」がいつまで続くのか、ニューヨーク市のTTCの効果が試されている。(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))

AERA 2020年8月24日号