ネットでの誹謗中傷が社会問題になっている。加害者にも被害者にもならないためにどうしたらいいのだろうか。小中学生向けのニュース月刊誌「ジュニアエラ」8月号では、メディア・アクティビストの津田大介さんが、この問題について解説した。

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 ツイッターなどを使った匿名の誹謗中傷に悩んでいたプロレスラーの木村花さんが、今年5月、亡くなった。まだ22歳だった。直前に「毎日100件近く率直な意見。傷付いたのは否定できなかったから」などと投稿していた。

 フジテレビの恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演していた木村さん。番組での振る舞いに対し「不快」「消えて」といった投稿が急増し、悩まされていた。

 ネットでは誹謗中傷が起きやすい。なぜだろう。

 リアルな世界では相手が生身の人間だと実感できるし、自分がやっているという自覚もあるから、面と向かって「お前、死ねよ」などと言う人は少ない。でも、ネットだと相手を傷つけているという実感も、自分がやっているという自覚も薄れる。「匿名だからバレない」と勘違いしている人も多い。目の前で言えないことを、平然と言えてしまうのは、このためだ。

 ネットの誹謗中傷は、短期間に、何十万という膨大な数が押し寄せるのも特徴だ。実はぼくもターゲットにされたことが何度もある。5分おきに何百通もの誹謗中傷が自分に届く恐怖や苦しさは、その立場になってみないと、なかなかわからないだろう。

 ネットでの誹謗中傷は、ひどい場合は裁判にかけられ、罰せられる。ただ、ヘイトスピーチなどの例外を除き、誹謗中傷と正当な批判の境目を単純に決めるのは難しい。受け手と送り手の関係性や、受け止め方など、言葉の内容以外にも考慮すべきことがあるからだ。

 しかも、個人が訴訟を起こすのは、とても大変だ。支援団体が少なく、精神的負担もあるなか、被害者が時間や費用、労力をかけなければいけない。相手を突き止めて裁判に至るまでに約1年、費用は60万~80万円かかる。勝ったとしても、割に合うとはいえない。

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津田大介
津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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