ステロイド剤「オルベスコ」は幅広く処方されている気管支ぜんそくの治療薬。神奈川県立足柄上病院が3月、処方した3人の患者がいずれも開始から2日程度で症状が改善したなどと発表。現在は藤田医科大を事務局として観察研究が行われている。

 急性膵炎(すいえん)などの治療薬の「フサン」。ウイルスが人間の細胞に入り込む過程で必要な、細胞膜との融合を阻止する作用がある。鳥居薬品が開発し、現在は日医工が製造販売権を持つ。東京大が、アビガンと併用する臨床研究を進める。働きが異なる薬の相乗効果を期待したものだ。

 安倍首相は14日の記者会見で、「日本発」のアビガン、アクテムラ、イベルメクチン、フサンの四つについて「(新型コロナ感染症への)有効性が確認され次第、早期の薬事承認を目指す」と述べた。コロナ感染症の緊急性を重視するためだ。

 だが一方で、効果や副作用を見極めるための臨床試験が不十分だと危惧する声もある。

 候補薬はいずれも、新型コロナ治療のために新たに開発された薬ではなく、厚労省が過去に別の用途で承認した薬の「適応外使用」になる。このため、患者の同意のもとで医師の裁量で処方することが制度上は可能。その前提で「観察研究」が行われている。

 観察研究で有望視された薬は、続いてRCTによる臨床試験で、効果や副作用を科学的に検証する必要がある。新型コロナのように、治療を受けなくても自然にウイルスが体外に排出されて治癒することも多い病気では特に、より多くの臨床試験の症例を積み上げる必要がある。

 こうした状況を踏まえ、日本医師会の有識者会議も5月18日、治療薬開発についての緊急提言を発表。「今回のパンデミックは医療崩壊も危惧される有事であるため、新薬承認を早めるための事務手続き的な特例処置であることは、誰しも理解するところ」としつつ、「有効性が科学的に証明されていない既存薬はあくまで候補薬に過ぎない」ことを改めて強調。「エビデンスが十分でない候補薬、特に既存薬については拙速に特例的な承認を行うことなく、十分な科学的エビデンスが得られるまで、臨床試験や適応外使用の枠組みで安全性に留意した投与を継続すべきだ」と警鐘を鳴らしている。(朝日新聞科学医療部記者・嘉幡久敬)

※AERA 2020年6月1日号より抜粋