オンラインニュースのビジネス・インサイダーに体験を語ったコンサル会社オーナー、オズワルド・メンデス氏は、混んでいないシティメッドを探して3軒を回った。あとは、前出の女性と共通しているが、体温と血圧を測ったのちに、「検査の精度は90%以上である」「しかし、抗体がどれくらい体内に残るのかはいまだに不明であり、再び感染するリスクもある」という説明を受けた。医師により聴診器で肺や呼吸の診断があったのち、血液の採取があったという。結果が出るのは3~5日以内だ。

 検査料金は、保険があれば無料、なければ70~120ドルとクリニックによって異なる。

 ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ州知事は、爆発的感染からどうやって経済活動を再開させるか判断するため、1カ月以上も検査を本格化させるための準備を進めてきた。5月2日に発表した1万5千人のスーパー従業員らから得た最新の検査結果によると、州民の平均12.3%が抗体を保有していた。人口過疎地ではわずか2~3%だが、米最大の都市ニューヨーク市は19.9%、つまり人口の5人に1人がすでに感染していたという衝撃の結果だ。

 クオモ知事は、抗体検査を急速に拡大し、どの地域で、どの職業や場所で抗体保有率と実効再生産性が高いのかを見極め、経済活動の再開に対する計画と規制を「科学とデータに基づき」(同知事)策定していく姿勢だ。また、ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長は7日、民間の支援を受け、市内5カ所で1日5千人の抗体検査を無料で行うと発表。最終的に14万人のデータを集める意向だ。

 抗体検査結果に従い、経済・社会を復活させるというプロセスは誰も試したことがない未知の領域だ。米ホワイトハウス新型コロナウイルス対策チームの一員で、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ医師も「ある状況下では、実際にメリットがあるかもしれない」とコメントするのみだ。

 しかし、ホワイトハウスやドイツなどは、「抗体がある」という証明書を国民に発行することも検討している。爆発的感染の震央となったニューヨークで、抗体検査による経済再生の道筋がつけられれば、明るいニュースだ。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)

AERA 2020年5月18日号