長嶋さんは「俳句は打球、句会が野球」だという。一人で素振りをする野球選手のように一句ずつ表現を推敲(すいこう)するのは「立派なこと」だし、どこかに投稿することもできる。

「俳句は一人でもできますが、同時に他者ともできる。句会では互いの句を披露し、批評し、語り合うことができます。野球で言えば、ヤジや乱闘、すべてが醍醐味であるように、俳句も始める前には思いもよらなかった、大きな混沌(こんとん)と豊饒(ほうじょう)さがあります」

 最後に、句会の魅力を長嶋さんに訊(き)いてみた。

「俳句には『作った人の何か』が必ず表れます。作品でだけ伝わる『その人』に出会える。それは句会でなければわからないものです」

(ライター・矢内裕子)

■HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんオススメの一冊

『おとぎカンパニー 日本昔ばなし編』は、日本昔話を現代ショートショートにアレンジしたものだ。HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 毎日毎日ボールを当てられて、たまらず倒れ込めばガッツポーズで喜ばれるボウリングのピンたち。文句も言わずに何度でも立ち上がり、倒れても吹っ飛んでも、また寸分違わぬ陣形で整列する。

 そんなピンたちが、坊主頭で色白のイカつい10人の男たちに見えてはこないだろうか。性格は義理堅くポジティブ。ボウリングが下手すぎて、一向にピンを倒せない主人公の家に、それをピンへの気遣いだと思い込んだピン男たちが、お礼にやってくる。まるで、現代版「笠地蔵」だ。彼らの言う「恩返し」とは一体何なのか。

 ショートショート作家による、日本昔ばなしを現代風にアレンジした作品集は、普段小説を読む脳とは全く違うところを刺激するだろう。その自由極まる発想が、無限大に広がる「面白い小説」の可能性を教えてくれる。

AERA 2020年3月2日号