稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
露店でおばあちゃんが売っていた手編みソックス。スパッツの足元にこういうのを履くのがまた可愛い(写真:本人提供)
露店でおばあちゃんが売っていた手編みソックス。スパッツの足元にこういうのを履くのがまた可愛い(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】露店でおばあちゃんが売っていた手編みソックス

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 まだまだ続くよ「幸せの国」と後から知ったフィンランド旅話。今回はフィンランド女子のおしゃれについて。

 これはもう一言で済ませられる。彼女たちのおしゃれのポイントは一つ。スパッツを履くこと。8割の女性はスパッツを履いている。しかも日本人のようにチュニックやスカートで「臀部」を隠すことなどしない。お腹がボーンと出ていようがお尻がバーンと大きかろうが、その形がはっきりとわかるピッタピタのスパッツを皆むき出しで履く。若い子だけじゃない。おばあさんは別としてもおばさんもバリバリとスパッツを履く。

 最初はかなりギョッとした。だがすぐにこのスタイルの理由がわかった。寒い国だから冬はボリュームのあるダウンやコートが必須。となると足元はキュッと締まっていた方が断然かっこいい。そして、どんな体型だろうが彼女たちの足は絶対的に長く細いのである。特に膝下はシシャモのように長く優雅なカーブを描く。これがコートの下からシュッと伸びている姿は間違いなく素敵である。

 つまりは彼女らの美しさを最大限に生かすのがスパッツで、これさえあればおしゃれは完成。そこには迷いもなく余計な装飾も不要。日本女性のように「山のように服を持っているが着るものがない」などという悩みとは無縁であろう。日々ワンパターンの服を着て堂々と、最高に背筋を伸ばして歩く。日本人の服狂い、流行狂いというのは実は世界標準ではないらしい。

 それにしても、最初はそんなポッコリお腹を堂々と出して大丈夫かなどと余計な心配をしたのだが、来る日も来る日も個性的な下半身を見ているうちに全く気にならなくなった。確かにどんな体型もそれぞれにカッコいいのかも……と考えていてハッとする。きっと彼女たちもそう思っているのだ。誰も自分の体型を恥じてなどいない。スタイルがいいとか悪いとか勝手な基準を作りジャッジしていたのは私だけだったのである。

 反省し早速スパッツで外出。勇気あるねと皆が言った。勇気が世間を変えるのだよ。

AERA 2020年3月2日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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