平均すると5~6年に一度家を売ることを前提にしているため、毎年の近隣価格や相場、月々の金利をチェックし家の正味の実力はどれくらいかを意識する傾向がある。だからメンテナンスや修繕も欠かさない。売却を前提にせず50年住み続けた中古住宅とは、市場価値が大きく異なるのは当然だ。

 前出の藤木さんが4年前に立ち上げた不動産売買サイト「家いちば」は、不動産を「買いたい人」と「売りたい人」が出会うための掲示板だ。いわば不動産版のメルカリのようなサービスといえる。

 サイトをのぞいてみると、やはり「以前親が住んでいた一軒家」が目立つ。多くは、近隣の不動産会社に売却の相談をしたものの「売れない」と言われ、途方にくれた子世代が投稿している。売却希望額は100万円以下が多く、0円や「マイナス180万円」のものも。所有者が解体費用を支払ってもいい、という切実な内容だ。

 見た目がボロボロで、持ち主も不動産業者も「売れるわけがない」と諦めていた埼玉県飯能市の一軒家を、近所に住む子育てファミリーが1万円で購入したり。茨城県稲敷市の一軒家を9万円で購入した人が、少し手を加えてから貸し出し家賃収入を得ていたり。

「間に不動産業者が入ってターゲッティングすると、先入観が入る。こういう人に紹介しますよ、こういう使い方をするんじゃないですかと決めてしまう。しかし、売り手と買い手が直接結ばれるサービスにしたことで、こちらの想像を超えるユーザーが集まってきました」

 4年間で少しずつ浸透し、このところは1日20件ペースで「買いたい」という問い合わせが来ている。様々な手を打ったものの7年間空き家状態が続いていた一軒家に問い合わせが殺到し、入札に28件の購入申し込みがあった例もある。

 投稿欄には、売りたい人がどんな気持ちで売ろうとしているのか、背景や理由を書くようになっている。藤木さんは「この思いの部分が、買いたいという人をひきつけている」と分析する。街で見かけるボロボロの空き家。見た目だけではとても手が出ない。しかし、そこで営まれた物語や所有者のストーリーを知ると、共感が芽生え購入意欲につながるという。

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