中古住宅が人から人へと流通するようになれば、暮らし方は大きく変わる。

 北九州の門司港近くで1歳の息子と暮らす高野慎太郎さん(34)、友紀さん(36)夫婦は、旅行で訪れたこの土地に魅せられ、そのまま移り住んだ。夫は東京、妻は宮崎育ち。共にフリーランスでグラフィックデザインの仕事をしており、どこに住んでも仕事上の支障は少ない。

 売りに出ていた海を見下ろす丘の上の一軒家は200万円。月3万3千円で借りることもできた。とりあえず借りて住んでから決めようと、賃貸で契約した。隣の空き地で畑作りも始めた。

「東京にいた時ほどは稼げないけれど、その分ゆったりした生活を送れている。お金も掛からない。東京で子育てしていたらもっとお金が出ていたと思う」

 地縁・血縁のない土地での子育てについて尋ねると、「九州には妻の親戚もいます。それに、地元の人たちが移住者を受け入れてくれる。子どもと遊んでくれる近所の人も大勢います」という。

 昨年12月17日、東京・茅場町のカフェには、「家」という縛りから解放された生き方を模索するビジネスパーソンら30人以上が集まっていた。

 移住や、複数の家を拠点にする暮らし方をテーマにした座談会。参加者は40~50代が多く、大手企業の部長クラスもいた。閉会の午後10時ギリギリまで、熱心な質疑応答が続いていた。企画した設計事務所経営の吉田浩司さん(36)は言う。

「定年後どこに住もうかとか、東京を離れて暮らすにはどうしたらいいのかなど、漠然と考えている人たちがヒントを求めて参加していました。副業解禁や働き方改革の空気を感じながら、みんなが会社以外の居場所や、今住んでいる場所以外でのつながりを探っているような感じでした」

 特に人気を博したスピーカーが、18年6月から「居候男子」を名乗る木津歩さん(27)だ。決まった家は持たない。全国各地を1カ月おきに転々とし、ゲストハウス、シェアハウスなどに無料で滞在し、人手不足の店や農家を手伝いながら暮らす。家賃は当然ゼロ。これまで、北海道から沖縄まで20地域に住んだ。

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