東京地裁前で「勝訴」の垂れ幕を掲げる伊藤詩織さん(撮影/編集部・野村昌二)
東京地裁前で「勝訴」の垂れ幕を掲げる伊藤詩織さん(撮影/編集部・野村昌二)

「この字を見たら実感してきました」

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 12月18日午前10時半過ぎ、東京地裁の前。ジャーナリストの伊藤詩織さん(30)は、「勝訴」と書かれた紙を手に、目を潤ませ語った。

 伊藤さんが元TBS記者の山口敬之氏(53)から性暴力被害を受けたとして、慰謝料など1100万円の損害賠償を求めた裁判。鈴木昭洋裁判長は、330万円の支払いを命じ、山口氏の「反訴」も棄却した。

 裁判所の前で取材に応じた詩織さんは、勝訴の感想を聞かれ、言葉を詰まらせながらこう答えた。

「まだどう感じていいかわからないので。ただ、法廷から出てきた時に、ずっと支援してくださった方がハグをしてくださって。一つのピリオドをつけることができたと思います」

 伊藤さんは2015年4月、就職相談のため、元TBS記者の山口氏と都内で食事をした。その際、意識を失い望まない性行為を強要されたとして警察に告訴。山口氏は準強姦容疑で捜査されたが嫌疑不十分で不起訴処分になった。検察審査会に不服を申し立てたが、17年9月に出た議決は「不起訴相当」。

 これを受け伊藤さんは17年9月、「望まない性行為で精神的苦痛を受けた」として、民事訴訟に踏み切った。それと同時に、レイプ被害を実名で告発した。勇気ある行動は、性被害を受けても泣き寝入りしないという「#MeToo」運動のうねりを日本社会にも巻き起こした。

 裁判所前には、多くの支援者も駆けつけた。支援者の女性(71)は喜んだ。

「本当によかった。日本の司法が良識を示してくれたと思います」

 伊藤さんは言う。

「私が経験したのは性暴力でしたけれど、その後の社会的環境や性暴力被害者が置かれている環境は本当に遅れていると思います」

 勝訴したが、これが終わりではない。これがきっかけとなり、今まで出てこなかった証拠や証言が出てきてほしいと語った。

「長かったです……。私の見ているこの景色は、以前と全く違うもの。まだまだ司法がきちんと関わらなければ、こういう事件はなかったことにされてしまう。法律、報道の仕方、教育。まだまだ宿題はあると思いますが、これを1つのマイルストーンとして、皆さんと1つ1つ考えていけたら」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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