鈴木:「ひとよ」は母親と子どもたちとの間にある見えない距離感がないと成立しないから、裕子さんはその距離感をずっと持っていてくださった。あれは僕らのためにもそうやってくれていたんだと思います。

 本作では佐藤、鈴木、松岡ともこれまでにないタイプの役柄を演じている。

佐藤:雄二はライターという役柄ですが、あまり準備せず、白石監督に全部委ねるつもりでした。白石さんはディテールのセリフがうまくて、台本にないセリフも現場で一言二言足す指示があるんですが、そこにリアリティーがあるんです。雄二は肉体も骨太のほうがいいだろうと、撮影までに5キロ太りました。体内はきれいじゃないほうがいいと思いジャンクフードをいっぱい食べるとか、そういう感覚的なことは意識していました。

鈴木:大樹の外見に関してはすべて監督のアイデアです。ただ、小さいこだわりはいっぱいあります。衣装合わせで言ったのは「メイクしたくない」ということ。あと、体のラインをあまり見せたくないと思っていました。

佐藤:指もずっと曲げてましたよね。

鈴木:それは隠し設定で。原作者に、大樹を吃音にした理由と指を曲げたことにした理由を聞いたんです。そうしたら、父親にやられて、それを言ったらまた殴られるんじゃないかと思って言い出せなかったと。その設定はすごく切ない。親に自分の骨が脱臼していることを言えないって、壮絶な子ども時代だなと思ったんです。台本で落としてもそれは自分の中だけでも残させてほしいと監督に頼みました。

松岡:私は園子の髪を金髪に染めてあげたいし、タバコも吸わせてあげたい。服も太ったのを気にしているからゆったりめにしてあげたいと監督にお願いしました。監督からは、髪の毛の長さは子役の女の子と同じ長さにして子ども時代とつなげたいと言われたんです。実際映画を見たら同じ長さにしてよかった、と思いましたね。

 そんな彼らが出演作を観る時はどのように観るのだろうか。

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