AERA 2019年10月14日号より(イラスト:添田あき)
AERA 2019年10月14日号より(イラスト:添田あき)
AERA 2019年10月14日号より(イラスト:添田あき)
AERA 2019年10月14日号より(イラスト:添田あき)
うつ病の診断基準(AERA 2019年10月14日号より)
うつ病の診断基準(AERA 2019年10月14日号より)
経営者 村井哲之さん(62)/リクルート、第二電電などを経て、現在、エネルギーマネジメント総合研究所、村井流通経営研究所代表取締役、ジャパン・フードバンク・リンク理事長(撮影/古川雅子)
経営者 村井哲之さん(62)/リクルート、第二電電などを経て、現在、エネルギーマネジメント総合研究所、村井流通経営研究所代表取締役、ジャパン・フードバンク・リンク理事長(撮影/古川雅子)

 休んでも仕事は追いかけてくる。復帰への焦燥感が、かえって回復を妨げる。焦らず治す思考法を「田んぼ理論」の医師に尋ねた。AERA 2019年10月14日号に掲載された記事を紹介する。

【チェックしてみよう!】うつ病の診断基準はこちら

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 ウオリャー!!

 都内の筋トレジムにこだまするのは、125キロのバーベルを持ち上げる、経営者の村井哲之さん(62)の雄叫(おたけ)び。村井さんは、2016年からフルマラソンを4度も完走しているという。

「うつ病だったなんて、信じられないでしょう? ベンチャー経営者として全国を飛び回っていた僕自身、うつ病は最も縁遠いと思っていました」

 日本のうつ病患者は、127.6万人(17年厚労省)。躁うつ病は含まれるが、うつの症状が出る適応障害や、うつ病を併発しやすい不安障害などは含まない。有病率は6.7%(13年同)で、「約15人に1人」が生涯に一度はかかる可能性があり、未受診者も含めると250万人(推定値)と報告されている。

 村井さんは「僕が回り道をしたから、他の人が回り道をしないように」との思いから、ブログ上で経験談を発信。先月、自著『うつ病は「心の病気」ではない。だから絶対によくなる!』も刊行したところだ。

 発症したのは13年。2年半苦しんだ。初期の主治医の下、3カ月入院した時は、線路に飛び込もうと考えるほど症状が重かった。社長から降格となった。

「退院後も薬のやめ時はわからず、薬物依存の入り口にいるのではと、恐怖で堪(たま)らなかった」

 問診だけで、医師により診断や治療方針がコロコロ変わり、“軽い”“普通の”“立派な”うつ病といった曖昧な表現に、不安を覚えた。医療不信に陥った。

 そんな村井さんの主治医選びの決め手となったのが、血液検査で得られる「客観的なデータ」に基づく丁寧なカウンセリングだった。川村則行医師(川村総合診療院院長)が、問診に加え、補助診断で血中の物質量の測定も行っていると知り、新たに受診。脳内に多く含まれる「PEA」(リン酸エタノールアミン)という分子が、血液に溶け出す性質を利用する検査法だ。

 うつ病は時間が経てば治る病気ではなく、薬を延々と飲み続けていれば治るものでもない。

「『適切な時期に、適切な期間』生活習慣の改善も含めた本当に効果のある治療をしっかり受けること。これに尽きます」

 と川村医師は言う。うつ病を「脳の病気」だと捉え、「脳」を「田んぼ」にたとえ、治療のロードマップを冬から春、夏、秋として理解する、「田んぼ理論」を提唱する。チャートを参照してほしい。

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