夜にもなれば肌寒くなるこの季節でも、ラグビーはとにかくアツい。試合会場ではホーカーが動き回る(撮影/写真部・東川哲也)
夜にもなれば肌寒くなるこの季節でも、ラグビーはとにかくアツい。試合会場ではホーカーが動き回る(撮影/写真部・東川哲也)

 試合が盛り上がり、熱量が増すほど、ビールはよくすすむ。ラグビーファンがビールをたくさん飲むのは、もはや伝統といえよう。AERA2019年10月7日号では、盛り上がるラグビーW杯の舞台裏を特集。ビールを「切らさない」ために、日本ならではの秘策があった。

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 JR横浜線・小机駅から横浜国際総合競技場(日産スタジアム)に向かう道は、アイルランドカラーの緑に染まっていた。9月22日、ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会3日目のアイルランド─スコットランド。スタジアムの内外にラグビーを愛する両チームのファンの熱気が満ち、本場欧州のような雰囲気を醸し出していた。

 よく見ると、ほとんどの愛好家の手はビールでふさがれている。肩を組んで、歌を歌い、しこたまビールを飲む。それがラグビー強国、特に英国のファンたちのスタンダードな応援のスタイルなのだ。

 日本でスポーツへの関わりは「する・見る・支える」と言われるが、彼らの場合はそれに「集まる」が加わると、かつて日本ラグビーフットボール協会の幹部が感心していたことを思い出す。仲間で集まって試合前から飲み、試合中も飲み、試合後も飲む。彼らの日常が、日本に来ても変わるわけがなかった。

「ビールを切らすな!」

 日本大会の組織委員会で、1年以上前からささやかれてきた言葉だ。全国12会場での飲食提供を担当する組織委の手塚久文・ケータリング部長は、繰り返しこう言っていた。

「売り切れを出さない。冷えたビールを提供する。この二つは、最低限やらなければいけない」

試合開始前にビール売り切れ

 ラグビー愛好家にはビール好きが多い。約250万人を動員した前回2015年のイングランド大会では、会場内とチケットのない人でも楽しめる「ファンゾーン」とで、1人当たり平均3パイント(約1.7リットル)を消費したといわれる。

 2年前に日産スタジアムで行われた日本とオーストラリアのテストマッチでは、競技場内の一部の売店で試合開始前にビールが売り切れる“失態”が起きていた。サッカーJ1の横浜F・マリノスの本拠で、サッカー日本代表戦などの運営実績もある同スタジアム。それでも、海外のラグビーファンの消費行動に対応しきれず、飲食担当者は「サッカーならビールを1人1杯買うところで、ラグビーは4~6杯は買う。缶ビールを24缶も求めるお客さんもいた」と驚いていた。

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