ノーベル賞有力候補「ゲノム編集技術」 最初の発見は30年ほど前の日本人研究者だった (1/2) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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ノーベル賞有力候補「ゲノム編集技術」 最初の発見は30年ほど前の日本人研究者だった

連載「福岡伸一の新・生命探検」

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福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授

福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授

 メディアに現れる生物科学用語を生物学者の福岡伸一が毎回ひとつ取り上げ、その意味や背景を解説していきます。

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 今年もノーベル賞の季節。某新聞社から発表時の解説要員として待機を命じられている。わたしも若い頃にもう少し真面目に研究に邁進していれば、ひょっとするともらう側にいられたかもしれないが(なんちて)、途中で脱落してしがない作家業になってしまったので、今やこうして説明する側に回っている。

 わたしの周辺での予想は、まずはゲノム編集技術、である。ジェニファー・ダウドナとエマニュエル・シャルパンティエが開発した。二人ともとても魅力的な女性科学者。経歴も華麗で(物語がいっぱいある)スター性抜群なので、受賞すれば大いに注目されるだろう。しかも二人とも発見当時は共同研究者だったのに、今はたもとを分かっているらしい。このあたりも知りたいところ。

 細胞の内部の細胞核にはDNAの糸が折りたたまれて格納されている。これがゲノム。これまでも分子生物学の技術を駆使して、ゲノムを解読し、DNAを切り貼りすることは可能だったが、何億文字もあるDNA暗号の、任意の文字列をピンポイントで、自由自在に書き換えることは誰にも不可能だった。二人はそれを画期的な方法で可能にした。Crisper-Cas9(クリスパー・キャス9)、またの名をゲノム編集技術。今や、分子生物学の世界で、この名前を聞かない日はないくらい汎用・応用されるようになった。

 Crisper-Cas9システムは、もともと細菌が進化の過程で獲得した、ウイルス防御機構を巧みに応用した技術だった。世界中が瞠目した。早くからノーベル賞確実と目された。2012年、最初の論文がネイチャーに発表されて半年後、彼女たちはこの技術がヒトの細胞にも使える論文を発表したのだが……なんと数週間早く、若手中国系研究者フェン・チャンが同じことを発表し、しかもゲノム編集技術の特許まで先行して申請していた。彼は手書きの実験ノートまで示して「僕の方が先にアイデアも思いついていた」と述べた。ジェニファーたちが怒るまいことか。このような紛争の経緯があるので、1テーマ3人までとされるノーベル賞受賞者にチャンが含まれるかどうかも注目点のひとつ。


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