日本国憲法の「表現の自由」の念頭に置かれているのは、国民が費用も自腹で賄う表現活動に対して、国から不当な介入を受けない自由の保障だ。今回のように公的支援を受けて開催される文化・芸術イベントで重要になるのは、「芸術の自由」の概念だという。

「芸術の自由」は、ドイツの憲法である「ドイツ基本法」の表現の自由に該当する条文の中で、こう明文化されている。

「芸術及び学問…(中略)…は自由である」

 簡潔な表現だが、これは「一般社会での芸術表現の自由を指すとともに、国や自治体が芸術を支援する際にもその『自由』の意味を尊重し、内容に踏み込んだ強制や統制にならないよう配慮するルール」(志田教授)と解釈されている。

 背景には、ナチス・ドイツのヒトラー総統がドイツ民族のイメージに合うかどうかで芸術に価値付けをし、「退廃芸術」を抑圧した歴史などの教訓がある。アメリカやイギリスでも、公的支援制度の運用にかかわる議論が積み重ねられている。

 一方、日本では、国が文化・芸術の振興支援を法律に盛り込んだのは21世紀に入ってからだ。2001年成立の「文化芸術振興基本法」を、観光やまちづくりにも資する観点から改正したのが、現在の「文化芸術基本法」(17年施行)だ。この中で、「文化芸術に関する活動を行う者の自主的な活動」を促進することを基本とし、「文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的な推進」を図ることがうたわれている。

 志田教授は言う。

「文化芸術基本法の趣旨からも、公金が捻出される場合も展示作品の選定など芸術的評価にかかわる部分は専門家に任せるべきです」

 実際、今回も展示内容については最終的に津田監督に一任して、開催に至った。にもかかわらず、開催後に実行委会長代行である名古屋市の河村たかし市長が大村知事に展示中止を求める抗議文を提出した。これは、表現の自由を論じる以前の「後出しじゃんけん的な制度面でのルール違反」だと志田教授は指摘する。

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