名古屋市長・河村たかし氏の発言が「憲法違反にあたる疑いがある」と反発する大村秀章・愛知県知事。 (c)朝日新聞社
名古屋市長・河村たかし氏の発言が「憲法違反にあたる疑いがある」と反発する大村秀章・愛知県知事。 (c)朝日新聞社
企画展「表現の不自由・その後」の中止を求めた河村たかし・名古屋市長 (c)朝日新聞社
企画展「表現の不自由・その後」の中止を求めた河村たかし・名古屋市長 (c)朝日新聞社

 脅迫や抗議が相次ぎ3日間で中止に追い込まれた「表現の不自由展・その後」。 だが専門家は「今回の議論にそもそも『表現の自由』はなじまない」と指摘する。なぜか。

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「ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」
「県庁等にサリンとガソリンをまき散らす」

 そんなファクスや抗議の電話が殺到し、開幕3日で中止に追い込まれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」(津田大介芸術監督)の企画展「表現の不自由展・その後」。再開のめどが立たない中、波紋は広がる一方だ。

 企画展は、慰安婦を表現した少女像や、昭和天皇の肖像群が燃える映像作品など、美術館から撤去されたり、作品解説を書き換えられたりした二十数点を展示し、公的施設での「表現の自由」を考えるきっかけにしてもらうのが狙いだった。

 愛知県が設けた有識者6人による検証委員会は、企画展中止に至る経緯を調べて9月に事実関係を発表する。芸術祭実行委員会会長の大村秀章愛知県知事は10月に国際フォーラムを開き、表現の自由を世界にアピールする「あいち宣言」を提案することを明らかにした。

 参加作家の動きも活発化している。作家72人が8月6日、共同声明で中止に抗議し、「展示は継続されるべきだった」と訴えた。展示室を閉鎖したり、展示内容を変更したりする作家も相次いでいる。海外作家らは12日付で企画展が検閲によって展示中止されたとする公開書簡を出し、津田監督を交えた公開ミーティングでこう訴えた。

「いかなる理由であろうとも、外部の力によって展示が閉鎖されれば、それは検閲である」

 作家のこうした言動に理解を示すのは、武蔵野美術大学の志田陽子教授(憲法学)だ。

「展示室が突然閉じられたことで、表現者や市民が受けたショックを考えると、個人の実感として『検閲』という言葉が出てくることは十分うなずけます」

 ただ法的には、主催者の判断で中止に至った今回のケースを「検閲」と位置付けるのは困難という。志田教授は、公的助成を受けた文化・芸術イベントを「表現の自由」に照らして論じることにも課題があると話す。

 理由はこうだ。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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