今年7月に厚生労働省労働基準局長が出した通達「医師、看護師等の宿日直許可基準について」の中で、宿直は「特殊な措置を必要としない軽度や短時間業務に限り、十分な睡眠がとり得るもの」とされているが、このアンケート調査結果によると、当直中の産婦人科医の合計睡眠時間は4.9時間。お産は昼夜問わずあり、夜間や休日は、平日日中と比べて医療スタッフの数も限られるため、当直する産婦人科医の負担は大きい。当直翌日も夕方や夜まで勤務という病院が6割以上ある。

 当直医を置かずに自宅待機をする「宅直」も4割の病院で行われていて、月に平均12.1回の宅直があり、5.4回出勤している。当直医とは別に、緊急時に備えて自宅待機する「セカンドコール」も7割近い病院で実施されている。ドラマにもなった漫画『コウノドリ』では、主人公の産婦人科医がライブでピアノ演奏中に病院から呼び出し電話が鳴り、ステージから消えてしまう場面が何度も描かれているが、現実の世界でも、勤務時間外の呼び出しに備える産婦人科医は少なくない。

 日本産婦人科医会常務理事で、日本医科大学多摩永山病院院長の中井章人医師の試算によると、「宿直は週1回、日直は月1回を限度とする」という厚労省の通知を満たすためには、当直1人体制の場合は最低8人、2人体制の場合は最低16人の医師が必要だという。だが、同会の施設情報(18年)によると、常勤医師が1人の病院は59(7.8%)、2人の病院は83(10.9%)で、2割近くが常勤の産婦人科医1~2人だ。中井医師は言う。

「試算した必要医師数は、有給休暇の取得や、妊娠や育児による当直勤務緩和も想定していないので、実際にはもっと多くの医師が必要です。少人数では分娩施設を維持することは難しい」

 医師の働き方改革に詳しい国際医療福祉大学医学部の和田耕治教授(公衆衛生学)はこう話す。

「少子化で出産数が減る中で産科の収益が減少することが見込まれている。地域のお産を守るという意志を持って分娩に対応する医療機関や医師に対して、さらに経済的なインセンティブをつけていかなければ、産科医療体制は守ることができない」

 ただ、民間病院と比較して公的な病院では、産科だけに特別の配慮や追加の手当支給といった例外的な扱いができにくい点もあるという。

(編集部・深澤友紀)

AERA 2019年8月26日号より抜粋