ひきこもり状態の人は、自分に自信がありません。人は社会的地位や人間関係、自分がやってきた仕事で自信を得ますが、彼らにはそれが全くないからです。時にプライドや自己愛が過剰に見えるのは、その裏返しです。ある意味悲鳴であり、健全な自己愛だと思います。

 外に向け一歩を踏み出すのに必要なのは、人間関係の構築と、自信の形成です。それも、家族以外の人間とのつながりが大切になります。私は、福祉や医療関係施設が提供するデイケア活動への参加を勧めています。レクリエーションなどを通じ、誰かとつながることで自信の礎ができ、その礎の上にいろいろなものをのせていくことで自尊心を形づくることができます。

 デイケアにつなげるには、私の場合、まず親と相談を続けながら、子にも通院を勧めてもらいます。親が子に「一緒に来てほしい」と誘い続けることです。先日も、親だけが5年間私のもとに通い続け、とうとう本人がやってきたケースがありました。

 このままでは、ひきこもりの数は20年後には1千万人を超えると予測しています。この30年近く、ひきこもりの人数はじわじわと増え続けてきたからです。就労支援も治療機関も、ひきこもり状態の人たちがそこから抜け出すことができるルートが少な過ぎるのです。都道府県が運営する「ひきこもり地域支援センター」やNPO法人「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」が頑張っていますが、実情に対して全く追いついていません。

 ひきこもりが可視化できない状況下では、国は何もしないでしょう。財政が圧迫されたり、孤独死や衰弱死が大量発生したりして初めて本腰を入れるのでしょうが、それでは手遅れ。ひきこもり当事者や家族が安心して相談できる支援体制を確立してほしいと思っています。(構成/編集部・野村昌二)

AERA 2019年8月26日号