「20年も会っていない相手と、対話が成立するとは考えにくい」

 全国組織の家族会「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の本部事務局長の上田理香さんは、「兄弟姉妹からの相談が顕著に増えている」という。同会が行った生活困窮者相談窓口への調査(2017年)によると、40代に比べ50代では「本人の父母」「本人」の相談が減り、兄弟姉妹が3倍に増えた。

 神奈川県に住む男性(53)は、こう話す。

「大学を出てから就職せず、ひきこもりがちな弟(49)のことが気がかりで、なかなか自分の幸せに踏み出せなかった」

 30年近く弟に仕送りを続けてきた郷里の母は、88歳。年金暮らしで貯金を取り崩し、実家のリフォームにも手をつけられない。仕送りは「もう限界に近い」と母親はぼやく。母を助けようと、送金を一部肩代わりしてきたが、弟が50歳になる今年度末で仕送りを終えると告げた。

 これを機に、男性は「これからは自分の将来についても考えていこう」と考え始めた。知人から見合いを持ちかけられ、女性との交際にも踏み出した。

 KHJの上田さんは言う。

「ひきこもり当事者のきょうだいには、自分が幸せになったり、うまくいったりすることに引け目を感じるという人もいます。きょうだいも、家族の困難を自分だけで背負わず、第三者の力を借りながら、自分の人生も大事にしてほしい」

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2019年8月26日号